第159話「検証、テレポーター」
米料理ではまともな食事にならなかったので、結局追加で普通の食事を頼んだ俺たちは、何とか普通の食事を終えて部屋に戻ってきた。
部屋に戻ってからは、サキさんは酔い潰れて入り損ねていた銭湯に向かい、ティナとユナは宿の浴場へ、エミリアは学院に帰って行き、俺はたらいのお湯で股だけきれいにして部屋に篭っていた。
明日の朝にはマンホールの蓋……ではなかった、テレポーターの親機が家に設置されるはずだから、一度我が家に帰ってゆっくり風呂に浸かるのもいいな。
暇を持て余した俺が自分のおっぱいを揉みながらベッドでゴロゴロしていると、ユナが部屋に戻ってきた。
「ここのお風呂、今まで泊まった宿の中で一番大きかったですよ」
「そうなんだ。入っとけば良かったかな」
ユナが髪を乾かしていると、ティナも部屋に戻ってきた。二人とも口を揃えて風呂が広いと言うのでちょっと入ってみたくなった。
ティナが髪を乾かし終えた頃になって、サキさんも部屋に戻ってきた。
ようやく全員揃って一息付いているし、俺は今日見つけた輸入品の武器屋のことをユナとサキさんに伝えた。
「マラデクの町にあったのは殆どゴミだったが、新品の状態を見れば欲しくなる武器があるかもしれんぞ?」
「たしかにの。朝は武器屋を見て、昼から酒屋通りを回るわい」
「お前はまだ回り足りんのか」
「私もサキさんと武器屋を見に行きたいです」
「うむ、良かろう」
「私は明日も市場を見に行くわね」
「俺はその時の体調を見てから考えるわ……」
前日の夜に翌日の行動が粗方決まるのはいいな。いつもは朝食後に決まるから、行き当たりばったりな予定を組むことが多い。
俺たちは明日に備えるため、洗面台がある一階に降りて四人揃って歯磨きをした。その帰りに、俺はこの宿でもう一泊延長する手続きを済ませてから自分たちの部屋へと戻る。
翌朝、そこまで体調が悪くなかった俺は、エミリアを含めた五人で宿の酒場まで行き、軽い朝食を取ってから宿の部屋に戻っていた。
昨晩決めていた通り、ティナは歩いて市場に向かい、ユナとサキさんは馬に乗って武器屋に出掛けてしまった。
エミリアは俺にテレポーターの子機を渡すと、大した説明もせず学院に戻ってしまったので、また俺は宿の部屋で一人になってしまった。
気晴らしにテレポーターを使って家に帰ってみようとも考えたが、あとでユナと一緒に行動した方が安全かなと思ったので、俺は昨日から気になっていた女湯を覗いて見ることにした。
──今まで泊まった宿の中で一番広いらしいからな。
誰もいない脱衣所を抜けて女湯のドアを開くと、確かに洗い場も浴槽も広かった。これなら大浴場と言えるだろう。男湯ならどこの高級宿もこれくらいの広さなんだろうが、この世界で初めてきれいな大浴場を見れたことに感動を覚えた。
一応湯は張ってあるようだ──今の時間は誰も居ない。俺は部屋から自分のお風呂セットを持ってきて、今がチャンスと言わんばかりに大浴場を満喫する。
途中で誰かが入ってきたら嫌だなあと思いつつ、ソワソワしながら髪と体を洗っていた俺だったが、湯船に浸かって一息つくと、すっかり気分も落ち着いてきた。
それにしても広い風呂だな。こうして一人で入っていると、金持ちのお嬢様にでもなった気がして気分がいい。
朝風呂で十分温まった俺は、気分のいいまま宿の部屋に戻って髪を乾かした。
俺が髪を乾かし終えて、ようやく服を着ていたところにユナが戻ってきた。思いのほかリラックスしていたのか、随分と時間が経っていたらしい。
普段の俺ならユナの目の前で裸になっても平気なんだが、パンツ越しに股に挟む奴がボッコリしている様は、同性の身内といえどもあまり見られたくない姿だ。
俺はブラウスに片手を通した状態のまま、先にスカートをはいてその場を誤魔化した。
「家のお風呂に行ってたんですか?」
「この宿の大浴場に入ってきた。どのくらい広いか確認しに行ったら、人が居なかったもんでつい……武器屋の方はどうだった?」
「いくつか買いましたよ。サキさんが居ないのでリヤカーに積んだままですけど」
サキさんとは武器屋の前で別れたらしい。今日も熱心に酒屋通りを回るようだが、あれだけ入れ込める物があるのは本当に羨ましい限りだ。
「テレポーターはこの袋ですか? 夕方まで二人きりですし、色々検証してみませんか?」
「うん。一人でやるより良さそうだ」
ユナはテレポーターの子機を麻袋から取り出して、表の模様や裏面をまじまじと観察しているが、カナンの町の公民館で使った時とは違い、手が触れた程度ではテレポートしないようだ。
「遺跡から取り外すと感度が低くなるらしいが、手に持っても効果が発動しなくなったのは逆に有り難いな」
「そうですよね。じゃあ、ちょっと使ってみます」
ユナは靴を脱いでから、テレポーターの上に飛び乗った。そうか、移動先は家の中だから、靴は脱いでおかないとな。
テレポートしてから数分経ったあと、ユナはこっち側に戻ってきた。
「どんな感じだった?」
「私達の部屋に繋がってましたよ。親機の方は子機よりも一回り大きくて三倍くらい厚みがありました。なんだか、専用の台座に子機を嵌め込んでいるようなデザインでしたけど……持ち上げてみると子機の数倍は重かったです」
「なるほど……それじゃあ、どんな検証をすればいいかな?」
「そうですねえ……」
ユナが最初に検証したのはテレポーターの動作感度だった。手で触れたり片足を乗せたくらいでは反応せず、両足を乗せたときにだけ動作するようだが……。
その後何度かの検証を重ねていると、テレポーターに乗せているのが片足だけでも、もう片方の足が宙に浮いていれば動作することがわかった。
「ようはテレポーター以外の床に手や足が付いていると動作しなくなるのかな?」
「テレポーターに片手と片足を付いた状態でも動作しますし、逆に体の一部が壁や床に付いている状態だと反応しませんね」
続いてユナは、テレポーターが塞がっている時の挙動を確認したいと言い出した。
テレポートで壁に埋まった魔術師の話を聞いたことのある俺は反対したが、テレポーターに麻袋を被せたり、端っこに何かを置く程度なら埋まったりしないと押し切られてしまった……。
俺はテレポーターに乗ったユナが家に移動したのを確認したあと、テレポーターの子機に麻袋を被せて三十秒ほど数え、その後麻袋を取り去った。
「移動先のテレポーターを何かで塞がれると機能しないみたいです」
再びユナが移動したので、今度はテレポーターの端を手で押さえながら再び三十秒ほど数えて、俺は手を離した。数えている間、ユナがこっちに現れないということは、機能を阻害されたということだろうな。
「仕様なのか制限なのかは知りませんが、安全装置に近い挙動をしてくれるのは助かりますね」
「親機と子機が連動しているからできる挙動だろうな。魔法のテレポートだと移動先の状況が全くわからんから、不幸な事故が起きるんだろう」
「じゃあ次は、二人同時に乗った時の挙動を調べます。ミナトさんも来てください」
「え? できるのかな?」
俺がユナの手を取ってテレポーターに乗ると、テレポート特有の感覚とともに視界が自分たちの部屋のものへと切り替わった。
「二人でも行けるんだ……」
「小柄なぶん、テレポーターの枠に収まっていたのかもしれません」
ううむ。しかし、何というか、体調が万全でないせいもあるんだろうが、やはり我が家に居るのが一番落ち着く……。
「今度はミナトさんが私を抱っこして、私の足を浮かせた状態でテストしてみてください」
「え? 持ち上がるかな……」
「……わかりました。私がミナトさんを抱っこします」
ユナはちょっと不満そうに言うと、俺の腰とお尻に手を回して持ち上げようとした。しかし変な抱え方だなあ。こんな体勢ではユナの顔が俺のおっぱいに埋もれてしまう。
こういう抱え方はプロレスで良く見るイメージだが、せめて「おんぶ」にならんのか?
「やめやめ、なんか危ないし、ぎっくり腰にでもなったら一生困る」
「動けなくなった人を抱えてテレポートできるのかを調べたかったんですけど……」
「サキさんが戻ってきてからやろう。その方が安全だ」
俺とユナは再び宿の部屋に戻って、無機質な物だけをテレポートできるか試してみたが、テレポーターに背負い袋や適当な小物を乗せても移動することはなかった。
「まあ、移動先でテレポーターが塞がって機能しなくなる不都合を考えたら、この仕様は理にかなっているのかな?」
「そうですね。親機は周辺に物を置かないようにして、安全な場所に設置しないといけませんね」
テレポーターの検証は粗方終わったので、俺とユナは馬小屋に移動してリヤカーに積まれたままの武器を早速テレポーターを使って家に移動させた。酒の方はあとでサキさんに運ばせる事にしよう。
特にやることが無くなったユナは、家からハーブティーの道具を持ってきて、宿の部屋のテーブルに広げている。
俺の方は二日目だと言うのに腹の奥がキリキリとはするものの我慢できない程でもなく、これが正常なんだと思えば不安感による鬱々(うつうつ)とした気分やイライラ感もそこまで酷くはなかった。
──が、さっき家に戻ったことで急にホームシックっぽい気分になってしまった。
ちなみに俺は家からコロコロを持ってきて、今日は顔と上半身を何時間も念入りにコロコロしている。この部屋には何故かドレッサーが完備されているので、細かい部分も鏡で確認しながらできるのは助かる。
もう何というか、俺だけ趣味らしい趣味がなさすぎるせいで、最近では暇潰しの手段がコロコロで女を磨くくらいしかやることが無くて困っている。
エミリアが持ってきた本にも目を通してはみたが、生活上必要だと思っている気分のうちは真面目に読んだものの、ある程度読んだら飽きてしまった。
うー。またネットゲームがしたいなあ……もう元の世界に戻る気なんか微塵も無いから、ゲームの方がこっちに来いよ。
結局俺は、ティナとサキさんが帰って来るまでずっとコロコロをしていた。もうやりすぎてしまって、唇はぷるんぷるん、爪はキラキラ、痛痒くて仕方がない乳首にもコロコロを続けていたら、恥ずかしいくらいの光沢感が出てしまった。
これはちょっときれいになり過ぎて恥ずかしいな……誰かに突っ込まれたらどうしよう。
「あら? ミナトはずっとコロコロしてたの? すっごくきれいになってるわよ」
部屋に戻ってくるなり、ティナは俺を抱きしめて頭を撫でながら褒めてくれた。唇を指で優しくなぞったり、俺の指先を一本一本撫でてくれたり……。
今日は念入りにコロコロをしたので、ちゃんと気付いて貰えるのは嬉しいなあ。
俺がティナに甘えている横で、ユナとサキさんはテレポーターの最後の検証をしていた。
サキさんがユナをお姫様抱っこしたままテレポーターに乗ると、二人は瞬時にしてその場から姿を消し……数秒後にはこちらに戻ってきた。
「これなら動けない人を抱えたままでもテレポートできますね」
ユナはサキさんの腕から、ゆっくりと地面に降りながら言った。
「あの……ちょっと私もお姫様抱っこされてみたいかも……」
「うむ」
ユナのお姫様抱っこが羨ましかったのか、ティナはサキさんにお姫様抱っこを所望した。
出来れば俺がティナを抱きたいが、俺の腕力だとちょっと無理っぽいんだよな……。
「不安になるほど軽いの。食う量を増やすと良い」
「ありがとうサキさん。いい経験になったわ」
「うむ」
ティナは余程嬉しかったのか、上機嫌でサキさんの腕から降りた。こうなったら俺もお姫様抱っことやらをしてもらうぞ!
「お主が一番重いわい」
「なんだと!?」