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第15話「新たなる出会い」

 ナカミチの工房はすぐに見つかった。壁も屋根もボロボロでお世辞にもきれいな工房ではなかったが、この一角だけ丁寧に雑草やゴミが取り除かれているので、別の意味でも周りと浮いていた。


「御免つかまつる! 日本刀と鎧兜を作ってくれ!!」


 サキさんが訳のわからないことを叫びながら工房の扉を開いた。

 薄暗い工房の中には前掛けを付けた髭のおっさんが炉の前に座っていて、ギロリとこちらを睨む。


「俺は刀工とうこうじゃねえよ……って、どうして日本刀なんて知ってんだ? お前も日本人か!?」

「である」


 髭のおっさんは40代くらいのガッチリした体格の男で、短い髪をわさわさと掻き毟りながらこっちに向き直した。

 俺たちが日本人だとわかると途端に良い笑顔を見せてくる。


「そうかそうか……まあこっちに来なよ。そうか……あっちの世界には嫌気が差していたもんだが、こっちはこっちで難しくてな。そうか……懐かしいな……」


 髭のおっさん……ナカミチは、どこか遠い目をしながら工房に俺たちを招き入れた。



「ちょっと待ってろよ。茶を入れてやる……っつても白湯しかねえが。この世界には茶葉とかないもんかねえ」


 えらくハイテンションでせわしないナカミチは、まるで孫が遊びに来た時のおじいちゃんのような感じであった。


「今日訪ねた目的は、ナカミチさんに装備を作って貰えないかと思いまして……」

「装備って言うと、武器とか鎧みたいなやつか? 俺は武器職人じゃねーんだよな。そもそも日本じゃ武器なんて作らなかったし……」


 それもそうか。


「鎧兜も無理であるか?」

「日本のやつか? 鉄板の部分なら作れるかも知れんが、あれは威し(おどし)と言う方法でパーツを繋げるんだが、紐の繋ぎ方を知らんから組み立てられんわ」

「む、むう……」


「そうですか……日本の職人なら異世界の武器なんか話にならないくらいの物が作れると思って来たのですが」

「なるほどねえ。そう言って貰えるのは有り難いが、仮に挑戦するにしても素材や道具を揃えねーと作業できないな」


 それもそうだ。俺たちは技術イコール日本みたいに安直に考えすぎていたな。



「でもこうして会えたのだから、それだけでも良かったと思うわ」

「そうだな。何か作って貰いたい物があるとき、同じ日本人ならイメージを共有しやすい。それから、俺たちはニートブレイカーズという冒険者をやっているんで、困った事があったら呼んで欲しいと思う」

「ニートなんだって? ひでー名前だな」

「すみません」


 その後俺たちは、ナカミチと世間話をしながら数時間を過ごした。

 早速ナカミチお手製の蹄鉄を買った事や、冒険の話など。ティナがこの世界の鏡は映りが悪いと言うと、そういうのなら任せておけと、工房の窓から夕焼けが見え始める頃まで話し込んだ。



「じゃあな。手鏡は作っておくから、また暇なときにでも来てくれよな」

「おねがいしますね」


 ナカミチは工房の扉の前でいつまでも手を振っていた。目的だった装備の強化こそ叶わなかったが、会いに来て良かったと思う。






 そろそろ鞍の方も出来ている頃合いかと馬を引き取りに行くと、白髪天狗とハヤウマテイオウは仲良く外に繋がれていた。出来上がっていたらしい。

 俺は工房の職人に鞍と蹄鉄の代金を支払って、早速白髪天狗の後ろに乗った。


「やっぱりちゃんとした鞍があると後ろでも乗りやすいな」

「これならお尻が痛くならないわね」


 サキさんの方は変化が無いのでわからないようだったが、俺とティナは満足した。珍しい馬を触れたからと、代金はまけてもらって銀貨1400枚だ。

 俺たち全員が乗れて、さらに背負い袋四つにテントなどの大型荷物を二つも運べるようになるので、まあ妥当な投資だと納得できる。

 それに、サキさんなら将来馬上戦闘もこなせるようになるだろう。


「すっかり遅くなってしまったな。飯を食いに帰ろう」






 冒険者の宿に戻ってからは、サキさんとティナが白髪天狗とハヤウマテイオウに餌をやり、その間に俺が洗濯物を取り込み、それぞれの作業が終わってから部屋に合流した。


「今日からは下の酒場で夕食を取ろうと思う。他の冒険者の雑談から有益な情報が得られるかもしれんからな」

「いいわね」

「ほう。冒険者らしくなってきたわい」


 俺たちは一階の酒場に下りると、強面の主人に晩飯を注文して適当な席に落ち着いた。

 酒場の席はまばらになっていて、一番混んでいる時間帯からは外れたようだ。聞き耳を立てると周りの声が良く聞こえるので、このくらいがちょうど良い。


 今日の晩飯はワイルドに味付けした鶏肉の足と野菜入りのスープ、野球ボールのようなパンが二つだった。

 鶏肉にボリュームがあって満足したが、俺はティナの手料理が食べたい。



「やれ、酒の一つも頼むか……」

「おい! 何とか言ったらどうなんだよ、ええっ!?」


 サキさんが席を立とうとした時、後ろの方の席からチンピラのような声がした。

 俺は一瞬喧嘩怖いと思って心臓がバクバクしたが、中腰のまま動かないサキさんを見て、俺も声がした方を向いた。


「もう金がねえってどういう事だ? こいつから金貨12枚取り上げたはずだろ?」

「だから無いものは無いんだよ。今日あんたが飲んだ分で最後よ」

「くっだらねえ! まじ、くっだらねえ! これもこいつが使えねーからだ」


 チンピラ風の小柄な男と、派手な化粧をした女が揉めている。

 どちらも20代前半くらいだろう。良く見ると二人を挟んた所に縮こまるようにして座る仲間がいた。

 チンピラ風の男がその仲間のフードを強引に剥ぎ取ると、乱暴に髪を掴んで頭を持ち上げる。


「しゃあねえ。おめーには今晩から稼いで貰うからな! 今日みたいに逃げんじゃねーぞコラ!!」

「ごめんなさい……うっ……もう……」


 フードを剥がされた仲間の方は、男に掴まれた髪を両手で庇いながら涙声で許しを請うている。互いの腕が邪魔をして顔は良く見えないが、声の感じからするとまだ子供のようだ。

 俺はサキさんとティナを横目で確認したが、サキさんは中腰のまま、ティナは椅子を引いた状態で待機している。俺の判断を待っているのか?


 仲間の髪を掴んだまま、チンピラ風の男が椅子ごとその仲間を蹴り倒そうとした瞬間、俺は叫んだ。



「やめろ下衆野郎!!」

「なんだとコラ……」


 掴んでいた髪を離すと、チンピラ風の男は真っすぐこちらに向かって来た。顔を突き出して俺を舐め回すように見ている。

 かなり怖かったが、俺は渾身の力を込めてその男の顔をグーで殴った。


「くっそ……やりやがったな!」


 数歩よろめいた男が腰から短剣を抜いた瞬間、サキさんが男の足を払って地面に押さえ付ける。


「なにしやがああぁぅ……」


 サキさんに押さえ付けられた男は、抗議の声を上げる途中で意識を落とされた。それを見て慌てた女が、男の元に駆け寄ってくる。


「あんたしっかりしてよ! ちょっとあんたァ!!」

「そのクズを連れて店から出ていけ!」

「あんたら覚えておきなよ! ……ユウナっ! 全部あんたのせいだからね!!」


 派手な化粧の女は捨て台詞を吐くと、気絶したチンピラ風の男を担いでヨロヨロと街の闇に消えていった。

 俺は思いっきりぶん殴って痛むこぶしを押さえながら、やっぱり女の子らしくパーで叩けば良かったと後悔していた。






 ティナは後ろの席で俯いているユウナと呼ばれた金髪の少女を介抱している。相手は刃物を出したが、サキさんは無事だったようだ。

 俺はユウナを保護して、とりあえず部屋に戻ることを提案した。


「すまんなご主人、常連を二人ばかり失ったかも知れぬ」

「気にすんな、金も尽きちまった飲んだくれはもう常連じゃねえよ」

「わしらは部屋に戻る。暴れた侘びに飲み物を四つくれい。二つは酒で頼む」


 サキさんが宿の主人にフォローを入れていると、さっきまで見物していた冒険者の一人が声を上げた。


「見所のある奴らだ。おいマスター、こいつらの酒は俺が奢るぜ。この店で一番良い奴を出してやりな」


 ガチガチの金属鎧で身を固めた、いかにも戦士風の男が名乗り出た。

 この男のテーブルには他に仲間が三人座っており、皆20代後半から30代前後のベテラン冒険者といったオーラを発している。


「こいつは珍しい。お前さんがよそのパーティーに肩入れするなんてよ。明日は雨が降っちまうぞ……お前ら! 洗濯物は今日の内に取り込んでおけよ!!」


 宿の主人の言葉に、酒場にいる冒険者たちが一斉に笑う。からかわれて赤くなった男は、照れ臭そうに顔を掻いて席に座った。良い奴なんだろうな。

 俺は名乗り出た戦士風の男にお礼を言うと、三人を連れて部屋に戻った。






 部屋に戻って飲み物が配られたあと、ずっと俯いたままの少女がようやく口を開いた。


「あの……ありがとうございました」

「ユウナとか呼ばれていたが、ユナではないのか?」

「ユウナです……」

「エミリアからはユナだと聞いていたが、聞き慣れない日本語名で間違えたのかな……」


 俺がそう言うと、ユウナは顔を上げて食い付いてきた。薄暗いランプの明かりに照らされた少女は、絵に描いたような金髪碧眼だった。


「エミリアさんを知っているんですか?」

「うむ。そなたを見掛けたらよろしく頼むと言われておる」

「私たちも元は日本人だから安心していいのよ」


 俺たちが同じ世界から来たのだとわかると、ユウナはせきを切ったように今までの事を説明してくれた。


 こちらに来てから冒険者としてやっていくと決めたユウナは、まず始めに冒険者の仲間を探したようだ。しかし声を掛けてきた連中が先程の二人組で、怪しいと感じながらもエミリアから貰った支度金をそいつらに渡してしまったそうだ。

 その後は冒険にも出ず、支度金はあの二人の生活費と飲み代に消えて、一度は逃げ出してエミリアの元へ行くも召喚魔法は停止しており、街へ引き返した所を二人に見つかって今に至ったらしい。


 随分酷い目にあったようだ。



「それでユナ、まだ冒険者としてやって行く気は残っているか?」

「……できるならそうしたいです」


 エミリアがユナと言うからユナで覚えていた俺は思わずユナと呼んでしまったが、ユウナは小さい声ながらも頷きながら答えた。


「わしはミナトの判断に委ねる」

「いいんじゃない?」


 二人の同意も得られたので、俺はユウナをパーティーメンバーとして迎え入れることにした。


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