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第158話「武器屋コノウエ」

 ハヤウマテイオウを操るユナの後ろに付いてから、暫く大通りの裏側を進んでいると大きな宿が見えてきた。道の向かい側には奉行所があるので、大通りのほぼ中央付近に位置しているのだろう。


「この位置なら北側も南側も自由に散策できるな」


 宿は二階建てだが、それ以外はマラデクの町で泊まった宿によく似た雰囲気がある。


「大部屋にしとくかなあ……」

「部屋を取ってくるわい」


 サキさんが宿のカウンターで手続きをしているうちに、俺たちは白髪天狗とハヤウマテイオウを宿の馬小屋まで連れて行った。



「しかし荷物が重い。サキさんの酒のせいだから、全部あいつに運ばせてやろう」

「それがいいと思います」

「じゃあここで洗濯物をまとめるわね。このままクリーニングに出しちゃいましょう」


 俺たちがそれぞれの洗濯物を出し合っていると、部屋を取ってきたサキさんも馬小屋の様子を見にきた。


「わしは昨日の酒屋通りに行ってくるわい」

「待て待て。ここにある荷物を全部運んでから行ってくれ」

「うむ」


 サキさんは四人分の背負い袋を一度に背負って宿の中央階段を上っていった。相変わらず腕力だけは凄いなあ。俺はユナにクリーニングを任せて、ティナと二人でドライヤーを部屋まで運び込んだ。






 サキさんが取ってきた部屋は、広々としたワンルームに大きなベッドが二つ並び、部屋の中央にはテーブルと椅子、クローゼットの横にはドレッサーとチェストが並んでいる。

 角部屋ではないので木窓の数は少ないが、どうせ魔法の明かりを使うし問題ないだろう。


 サキさんは荷物を部屋に運び終わるとそのまま酒を見に行ってしまい、ティナも市場に行ってしまった。ティナの方は当初の予定通りなんだけど。

 しかしこの流れだと、また俺一人で留守番になってしまいそうだ。


「ユナはどうするんだ?」

「昨日は宿の中を見学していたので、昨日回れなかった北側を散策してきます」

「そうかあ。北街寄りは危ないかもしれんから、程々にしてくれよ」

「はい」


 ユナはハヤウマテイオウに乗って、東街の北側を散策しに出掛けてしまった。ううむ。



 結局俺は一人になってしまった。誰かに付いて行けば良かったのかもしれないが、酒を口に付ける体調ではないし、市場の喧騒はつらくなりそうだし、一日中馬のくらが下っ腹を直撃するなんてのも遠慮したい。


 やはり不便な体だな。そう言えば、腹巻きも湯たんぽも家に置いてきたままだ……ティナは股に挟むやつをすぐに用意してくれたが、いつも持ち歩いているのか?

 俺も持ち歩いていた方がいいのかな……。


 まあいいや。暇潰しする物もないし、ちょっと近所を散策してみよう。






 宿を出た俺は、大通りから一つ外れた通りを歩いている。市場もそうだが、あまり売れない物が大通りの商店に鎮座することは殆どない。つまり、王都の四大よんだい大通りに並んでいるものは大体同じ様な物ばかりなので、珍しい物、売れない物、掘り出し物の類を探すなら裏通りや小道に限る。


 俺が宿の裏側をブラブラ歩いていると、武器屋の看板が目に留まった。


 看板には「武器屋コノウエ」と小さく書かれているが、建物の入口がいきなり階段で、しかも恐ろしく角度がキツいし幅も狭い不親切設計な店舗だ。

 流石に一人では入りづらいが、かと言って全員でゾロゾロと入れるような雰囲気でもない。暫く迷ったが、俺は一人で入ってみることに決めた。



 手摺てすりすら付いていない階段を上ると、横に長細くて三畳ほどしかない店舗の中に、所狭しと陳列された武器の数々が視界に入る。

 店の一番奥には、丸椅子に腰掛けた店主らしきおっさんの姿が見えた。おっさんは少しの間俺の姿を見ていたが、やがて興味がなさそうに視線を移す。


 大方、場違いな客が来たと思っているのだろう。


 まあ何も言われないのは返って都合がいい。俺は所狭しと壁に掛けられた武器や、傘立てのような木箱に無造作に収めてある剣を観察する。



 ……王都では見掛けないデザインの武器が多いな。マラデクの町にある「変な店」で見たのと殆ど同じ形状の武器もちらほらと目に留まった。

 もちろんここにある武器は全て新品だろう。「変な店」に置いてあった、戦場の跡から取ってきたようなボロボロの武器防具とは訳が違う。


 この武器屋はユナとサキさんのコンビで見に来るのが良さそうだ。俺が見ても物の善し悪しがわからない。


「すみませーん、王都だと見掛けない武器が多いけど、全部輸入してるんですか?」

「なんだ、場違いな小娘が迷い込んで来たと思ってたが、詳しいじゃないか」


 やはりそう思われていたか。


「貿易商に頼んで年に数回仕入れているんだ。どの商品も確実に入ってくる保証はないから早い者勝ちだよ」

「そうなんだ……」



 見たところ、これだけ商品があるってことは最近仕入れたばかりなのだろう。みんなには今日の晩にでも報告しておくか……なんてことを考えていると、あの狭くて急な階段から冒険者風の男が数人、ワラワラと姿を表した。


 しまったな。通路の幅が50センチもないのに、これじゃあ出るに出れん。


「む? 嬢ちゃん、店を出るとこかね?」

「あ、はい……」


 俺がどうしたものかと悩んでいると、冒険者風の男たちは全員俺と一緒に店の外に出てから、再び狭くて急な階段を上っていった。

 何とも不便な店舗だが、親切な人たちで助かった。慣れた様子で階段を駆けていたから、ここの常連なのかもしれないなあ。


 あまり長居した感覚はなかったが、空の色は夕方になろうとしている。日の落ちる時間が早くなっているせいもあるが、そろそろ宿に戻っておくかな。






 俺が宿の部屋に戻ると、エミリアがセルフ放置プレイを楽しんでいた。まだ誰も帰っていないのかと思ったが、酔い潰れてベッドの裏に落っこちているサキさんも居た。


「本体側のマンホールの蓋は取れたのか?」

「実はまだなんです。学院長先生が助けてくれたので外し方までは判明したのですが、一度でも遺跡から取り外すと効果が弱まってしまうようで……」

「あの部屋と連動して魔力供給でも受けていたか……補助側のマンホールの蓋を外すときに、それらしいことを言ってたよな」

「良く覚えていましたね。まさにその通りなんです」


 エミリアの説明では、本体側のマンホールの蓋が遺跡からの魔力供給を受けている間は人間二人が馬に乗ったままでもテレポート可能だが、魔力供給が絶たれた後は人間一人の規模しかテレポートできなくなるようだ。効果と同時に感度も下がるので、マンホールの蓋に触れただけではテレポートできなくなるらしい。


 人間だけなら順番にテレポートを繰り返せばいいだけの話だが、大きな荷物がテレポートで運べなくなるのは痛い。馬のテレポートも無理になると、何でもかんでもマンホールの蓋で移動手段が全て解決とはいかなくなる。


 俺がどうするべきかで悩んでいると、ティナとユナも宿に戻ってきた、






 酔い潰れたサキさんをティナが介抱している横で、俺はマンホールの蓋について判明している問題点をみんなに説明した。


「ややこしいのでテレポーターの親機と子機に言い換えませんか?」

「まあ、親機と子機だよな……」

「結論から言うと、弱体化してでも取り外すべきだと思います。現状では一旦遺跡の内部に移動してから、エミリアさんのテレポートで子機を目的の場所まで運んで貰って、さらに移動する二度手間の方法になりますよね?」

「はい、そうなります」


「親機を家に設置しておけば、エミリアさん抜きでも外出先と家を直接往復することができますよ。特に今みたいな状況だと、掘っ建て小屋みたいな宿しか無くても実際には家で生活ができます。子機を安全に設置しておける場所さえ確保できればいいわけですから」


 なるほど、利便性を取る方向か。まあ、どうせフルパワーの状態でも荷馬車をテレポートさせるほどの効果はないからな。


「……ユナの言う通り、親機は家に設置しよう。遺跡に設置したままなら馬のテレポートも可能だが、蹄鉄ていてつで魔法陣を踏み荒らすのは何かと問題がある」

「私としてもその方が助かります。明日の朝までに親機を家の……ミナトさんの部屋に置いておくことにしますね。子機はその時に持ってきます」


 何だかんだで十日近く掛かってしまったが、何とか無事にテレポーターを手に入れることができそうだ。万能ではないにしろ、旅をしながら自由に家を往復できるのは心強い。






 俺たちは酔い潰れたサキさんが回復するのを待ってから、今日は五人で宿の酒場に移動している。


「ちゃんとした宿だからな、昨日の宿よりはまともなはずだ」

「お米の料理があるみたいよ。珍しいわね」

「ほう?」


 米料理にはいくつか種類があるようなので、とりあえず一種類ずつ頼んでみた。カナン地方の料理は普通に美味しいのに、なぜか王都になると不味い料理に当たる確率が高くなるのは不思議でしょうがない。

 前評判を知らずに未知の料理を人数分頼むのは危険だと、最近は警戒しながら注文している。



「焼き飯っぽいのと、おかゆっていうか殆どスープみたいなのと、団子っぽいのと……なんだこれ? うわー、米の腸詰めだ。これは大当たりだなあ……」

「わしは焼き飯もらおうかの」


 サキさんは一番無難そうなやつを瞬時に見極めて小皿に取った。


「わ、無難な所に行きましたね。男らしくないですよ」


 ユナが米の腸詰めをサキさんの側に寄せようとした時、サキさんの動きが止まった。口いっぱいに頬張った焼き飯を噛み締めながら、若干目に涙を浮かべている。


「…………」


 隣でサキさんと張り合っていたエミリアは平気な顔をして食べているようだが……俺は怖いもの見たさでスプーン半分くらいの焼き飯を口に入れてみた。何とも言えない風味が口に広がった。上手く表現できないが、食ったらダメな物だと体が警告するような味だ。

 俺が固まっていると、ティナとユナもスプーンに半分ほどの焼き飯を口に運んだが、やはり二人とも固まってしまった。



「……タンスに入れる防虫剤の匂いだわい」


 ようやく口の中の焼き飯を飲み込んだサキさんが感想を言う。そう言えば昔嗅いだことのある匂いに似ている。こっちの方は口から鼻に抜けてくるので強烈だが。


「……こういう種類なのかしら? ちょっと口に合わないわね」

「こっちのスープは大丈夫ですよ」


 ユナが小分けした米のスープは、見た目は真っ白で冷ましたスープだ。牛乳のようにも見えるが、味は杏仁豆腐をもっと甘くしたような感じで、防虫剤の匂いもしなかった。


「ご飯とは言えないが、これは美味いと思う。団子の方も同じ種類かな? 米粉を固めてあるようだが……」


 団子の方は餅っぽさはないものの、こちらも甘みが強い。おやつには良さそうだが食事にはならなかった。



「ラスボスだが……」


 当然ながら最後まで残っていたのは米の腸詰めだ。流石に冒険過ぎて誰も手を付けないので、仕方なく俺が一本食ってみた。


「どうですか? 全く想像できないんですけど……」

「ちょっと生臭い気がするけど、塩が効いた普通のご飯が入ってる。これなら釜で炊いた方が美味いと思うんだけどな……」


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