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第145話「第二回甘えん坊勝負」

 広間のテーブルには食事が運ばれている。勝手口の横で作業していたから、それが終わるタイミングに合わせて用意してくれたらしい。

 今日の夕食はエビフライのタルタルソース掛けだ。盛り合わせの野菜もブロッコリーのようなものが添えられている。少し形が違うようだがブロッコリーで間違いないだろう。


「確か延々と混ぜるんでしたっけ?」

「ハンドミキサーがあるから好きな時に作れるわよ」


 やっぱりエビフライに一番合うのはタルタルだなあ。そういえばエミリアに掻き回す魔道具を持って来いと言ったら、ブルブル振動する変な魔道具を持って来たんだっけ。


「エミリアが持ってきたブルブルのやつはサキさんが持ってたはずだな? アレ、役に立ってるのか?」

「毎日つこうとるわい」

「まさかと思うが食事中に言えないような事に使ってるんじゃないだろうな?」

「失敬な。色んな振動が使えるんでの、筋肉の痛みに効くと評判である。いつも銭湯で使っておるわい」


 ほう、あの魔道具にまともな使い道があったとは……てっきり俺は、サキさんが自分の尻に挿して遊んでいるんだとばかり思っていた。

 しかし銭湯で眼福がんぷくしたついでにマッサージと称して見知らぬ男の体をベタベタ触っているサキさんの姿を想像すると、何とも言えない気持ちになる。






 飯を食い終わると同時にエミリアは学院に戻ってしまったが、俺たちは今回手に入れた現金と魔道具について話し合っていた。


「魔法のナイフは効果の割に値段が付くらしいから売ったぞ。魔力向上の指輪はティナに渡したが、魔法の電子ペンはどうしようか?」

「酷い名前ね……このペンで書いたインクしか消せないの?」

「残念ながらそうらしい。普通のペンで書いたインクや、別の魔法のペンで書いたインクは消せないみたいだ」

「そうなると書類の改ざんには使えないですね……」

「わしにくれえ。絵を描くのに使うわい」

「じゃあこれはサキさんにあげる」


 俺は魔法の電子ペンをサキさんに渡した。ユナのボヤキを聞く限りでは、サキさんの方が健全な使い方をしそうなので、これで良いと思う。



「最後は魔法の照明というか、魔法のランタンだが、無駄に13個もあるぞ」

「とりあえず私とサキさんに1個ずつ持たせてください。電池切れしないのは便利だと思います」

「わかった」

「これは適当に配ったりせずに、残りは家で保管しておいてください」

「お、おう……」


 実は超適当に配ってやろうかという考えが俺の脳裏をよぎったのだが、すっかり見透かされてしまったのか、ユナに釘を刺された。



「じゃあ次だが、魔道具以外の物を換金したら金貨1760枚になった。銀貨だと8万8000枚だな。アサ村には銀貨10万枚ほど渡せたらいいなと考えていたけど、思ったより少なかった」

「少ないですか? いくら発見者の取り分でも、好意で渡すような金額ではないと思いますよ。もう少し冷静になって、考え直してください」


 渡す額を減らせと言うことか? ユナの口調が厳しいものになった。


「アサ村から埋蔵金が出ることはもう二度とないだろうから、なるべく多く渡してあげたいと思ったんだけどな。村全体で見れば一人あたり銀貨800枚程度なんだけど……」


 俺はテーブルクロスの端をつまんで、うにうにと手悪さをしながら答える。



「魔法のナイフを売った分で銀貨10万枚は超えるであろう。だが渡し方は工夫せい。立ち退きで大金が入った途端に豹変した者を何人も見たゆえ、わしは責任が持てん」


 サキさんにまで注意された。言ってる意味は良くわからなかったが、宝くじが当たったせいで性格が変わってしまった人と似たような話なのだろう。


「他にもありますよ。いきなり村の羽振りが良くなったら不要なトラブルが起きるかもしれません。ついついお金があると言い触らして年貢が増えてしまったら、後々困ったことになります」


 悪いように考え過ぎな気もするが、たった一度の臨時収入のために年貢が増えたら本末転倒だ。時期が時期だけに注意せねば。



「わかった。どちらにせよ金を渡しに行くのはアサ村の公民館に直接テレポートができるエミリアだから、事情を説明して問題が起きない金の受け渡し方法を考えて貰おう。村の台所事情はともかく、俺たちは年貢のシステムを把握できていないからな」

「それでいいと思います」

「話は済んだかの? わしは酒でも飲むとするわい」


 サキさんがソファーに移動して酒を飲み始めたので、俺たちは風呂に入ることにした。






 ティナにはそのまま風呂に入って貰い、俺は家の裏の焼却炉でゴミ焼きをし、ユナは食器の後片付けをしてから風呂に入った。


「…………」

「きゃあ、ちょっとユナ、どうしたの?」


 湯船に浸かったティナの背後から、突然ユナが両手を回してティナのおっぱいを揉み始めた。


「何だか油粘土の重量感がトラウマ気味になってて……」


 ユナはティナの背中に抱き付いたまま離れようとしない。そんなことを言ったら俺だってトラウマだ。あのサイズと重量感は夢に出てきそうになる。

 俺はユナの両手を下にずらしてから、谷間のできない谷間に顔を埋めた。ティナのおっぱいはサイズこそ小さいが、ふにゃりとした感触が頬に当たると物凄く気持ちがいい。


「んっ……もう、ミナトまで……」



 俺は家に帰ってきた安心感から気が緩んで、ついついティナのおっぱいに唇を押し当てた。しっとりと濡れた肌に吸い付くような柔らかい感触に加えて、ティナが俺の頭を撫で始めたものだから、俺は全身の力が抜けてふにゃふにゃの状態になってしまう。


「ミナトさんばっかりずるいですよ!」

「ぶぅー!」


 ユナが前側に移動してティナの胸に抱き付こうとしたので、俺は咄嗟とっさに空いた方の手でティナのおっぱいを塞ぎつつ威嚇の声を上げた。


「な!? ぶぅーって……ミナトさん、いや、ぶぅーって……」


 ユナは下を向いたまま震えている。突発的に始まった第二回甘えん坊勝負だが、ユナには反撃の機会すら与えずに俺の勝利で終わった。


「……もう上がるわよ」


 心地よい時間はティナの一言で終わりを告げた。ちょっと逆上のぼせそうだったから、そろそろ上がる頃合いだろう。



 体を拭いた俺たち三人は、ソファーでうたた寝しているサキさんを放って一旦部屋に戻ると、パジャマを着てから歯磨きと髪を乾かしに再度脱衣所へ戻った。もちろんサキさんを起こして一緒に歯を磨く。

 この時間にサキさんが居眠りをするのは珍しいことだ。やはり火の番で起きていたのが原因だろう。今日は早めに寝たほうがいいな。


「小便してから寝るわい。あとは頼む」


『おやすみー』


 あとに残った俺とティナとユナの三人で髪を乾かし終えると、家中を照らしている魔法の明かりを消し歩きながら自室に戻って寝ることにした。

 今日は特に疲れたせいか、ベッドに入って数秒後には深い眠りに落ちてしまった。






 翌朝、いつものように目が覚めた俺とユナは、朝の準備のついでに洗濯を済ませた。途中から起きてきたサキさんを脱水係りに任命して、俺は広間に居座っているエミリアと話をしに行く。


「……という話が昨日の夜にあったんだが、一度に渡す額が大きいと問題が起きるんじゃないかと心配している」


 俺はエミリアに、昨日の夜の出来事を説明した。


「この世界でもそういう問題は起こり得ます。あの遺跡の内部には何度も足を運ぶ事になりますから、私の方で悪くならない方法を考えてみますね」

「頼む。とりあえず金貨1760枚は渡しておくから、残りは魔法のナイフの売却金で補填して欲しい」


 俺は昨日エミリアから渡された金貨の袋をそのままエミリアに差し出した。


「魔法のナイフは銀貨1万9000枚で売れる予定ですから、差額の銀貨7000枚……金貨140枚をこの場で返しておきますね。後は私の方で処理しておきます」


 エミリアは受け取った袋から金貨140枚を出してテーブルに重ねて置いた。



 俺とエミリアが金のやり取りをしていると、洗濯物を干し終わったサキさんが広間に戻ってくる。少し間を置いてからティナとユナが朝食を運んできた。


 今日の朝食はサンドイッチだった。具は定番の卵のほかにハムキャベツがある。普通はハムレタスだと思うんだが……不思議なことにキャベツの方が自然と食が進む。


「端っこの部分まで具が詰まってるのがいいな……俺はこの辺でやめとこう。ぱくぱく行けるけど食い過ぎてしまいそうだ」

「私も、マヨネーズキャベツが危険で……」


 ユナが途中で固まったのでその方向を見ると、エミリアは両手にサンドイッチを握って、ハムスターのような形相ぎょうそうをしながらサンドイッチを頬張っていた。


「エミリア、もっと落ち着いて食べなさい」


 こうなってくるともう、テーブルマナーもへったくれも無いな……。






 朝食が済んで一息入れた所で、それぞれが本日の予定を報告し始める。すっかり朝の定番になったので、最近では俺が取り仕切る必要もなくなった。


「わしは戦闘訓練である。冒険中は出来んかったからの。夕方は銭湯に寄って帰るわい」

「シオンやウォルツとやるのか?」

「うむ。今月中は特に予定もないと言うておったわい。他に用件が無ければ今から出る」


 サキさんは木剣とお風呂セットを両腕に抱えた状態のまま、歩いて出掛けてしまった。



「私は観光遺跡のマップの細部をもう一度確認してきます。時期的には今日が最後になると思います」

「ふと思ったが、普段観光地になってる施設なら地図くらい売ってないのか?」

「簡単な地図ならありますけど、カーブになった部分が省略されてるとかで使い物にならないんですよ」


 サキさんに続いて、ユナはハヤウマテイオウにリヤカーを付けて家を出た。どうせなら冒険者の宿までサキさんと二人で行けば良かったのに……。



「俺たちはヨシアキのパーティーメンバー探しをしないといかんのだろうなあ」

「正直行きたくないけど仕方ないわね。冒険者なら男同士の方がお気楽だと思うのにね」

「だよなあ……」


 俺とティナの二人は、あまり乗り気がしないけど渋々家を出ることにした。

 ティナが洗い物をしているうちに、俺は白髪天狗と荷車を用意する。しかし全員一度は冒険者の宿に立ち寄るんだから、全員で家を出れば良かったのになあ。


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