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第132話「唸り声の正体」

「ニートの皆さん、どうもお久しぶりです。まさかこんなに早く来て頂けるとは思っていませんでしたよ」


 洞窟の奥の横穴から這い出してきたジムは、全身泥だらけになっている。


「心が痛むからニートニート言わないで欲しいが、今は何をしていたんだ?」

「土で埋めただけでは不安なので、石を敷き詰めて補強していたんですよ」

「……肝心の唸り声を聞いてみたいです。直接聞けば正体がわかるかも知れません」


 エミリアが一歩前に出た。そうだな、まずはエミリアの知識にあるか、知らなくても大よその見当が付かないか確かめねば……。

 俺はジムが這い出してきた横穴を覗き込んでみたが、横穴の高さは1メートルもない状態だ。


 魔法の明かりで照らしてみると、2メートルほど先に石の山が見える。先程までジムが敷き詰めていた石だろう。


「ぬわわっ!? 何ですかその明かりは!?」


 俺の隣にいたジムが、魔法の明かりを見て驚いた。そうか……以前ここに来たときは魔法とは無縁だったから、ジムは何も知らないんだな。


「魔法の明かりだから大丈夫だ。実は……俺とティナと後ろにいる奇乳の女は魔術師なんだよ。古代遺跡ドンと来いなメンバーだから安心して欲しい」

「そ、そうだったんですか……親しみやすい冒険者だと思って気軽に手紙を書いてしまったけど、まさかそんな大物パーティーだったとは……」


 魔術師が三人もいるパーティーは世にも珍しいと思うが、わりと緩めの冒険者だから気構えないで欲しいなあ。



 それにしても、穴の奥からは何とも言えない不気味な唸り声が聞こえてくる……。


「エミリア、ここからでも十分唸り声が聞こえるぞ。ちょっと聞いてみてくれ」

「はい」


 俺と場所を交代したエミリアは横穴に耳を傾けて暫く唸り声を聞いていたが、やがてこちらを向き直って一言──。


「良くわかりません」

「もう良い。奥へ進めばわかることであろう?」


 サキさんがエミリアを押し退けて、無理やり横穴に入ろうとするのを俺は止めた。


「お前はまた、なし崩し的に進んで行こうとするな!」

「うぬう……」

「ジムさん、横穴の一番奥はどうなっていたんですか?」

「レンガのような壁に突き当たっていたんですが、村の悪ガキどもが興味本位で壊そうとしたら、それ以来ずっと唸り声が聞こえるようになったんです」






 俺たちは一度横穴から離れて、獣除けの焚き木を囲んで今度の予定を考えている。


「あれだけ狭いと武器の持ち込みもできないですし、魔法で穴を広げるべきです」

「私もユナさんの意見に賛成です。古代遺跡の壁ならそう簡単に壊れませんから、突き当りの壁までは進んで良いと思います」

「……わかった。俺が横穴を広げるから、エミリアは落盤防止に周りを石化してくれ。ティナは不測の事態に備えてバックアップを頼む」


 俺はエミリアと並んで横穴の拡張作業を始めた。公民館といい洞窟といい、今日ほど土の魔法を使った日は無いな。完全に土木作業の日だ。



 結局俺は、横穴を高さ2メートル、横幅1メートル程度に拡張した。兜まで被っているサキさんが頭を擦らずに通れる高さを確保するには、やはり2メートルの高さが必要だ。

 一度埋められた横穴を掘り進めて行き、ジムから聞いたレンガのような壁が現れたのは3、4メートルほど進んだ地点であった。


「本当にレンガみたいな壁だな。そして唸り声が酷い」

「何だか犬の唸り声みたいね」

「大型犬みたいな低い唸り声ですよね……あれ? このレンガの壁、随分傷んでませんか?」


 ユナに指摘されて壁を確認すると、確かにレンガの表面はボロボロと崩れそうな程に傷んでいる。


「微妙に魔力が漂っているからこの壁かと思ってたけど、この壁は普通のレンガみたいね」

「もしそうなら簡単に壊れてしまうってことか? エミリア、壁一枚まで近づいたし、そろそろ唸り声の正体が何かわからんのか?」

「ちょっと前を失礼します……」


 エミリアは一番先頭に出て、レンガ越しに耳を当てた。もう耳なんか当てなくてもウーウー物凄い唸り声が響いているんだがな……。



「……これは『ヘルハウンド』か、それに似せて作った魔法生物のどちらかだと思います」

「ヘルハウンドの方がオリジナルなのか? そいつの特徴を教えてくれ」


 エミリアの説明をまとめると、この「ヘルハウンド」は悪魔と同じように異界から召喚される魔物らしい。姿は犬だが大型犬を超えるサイズで極めて凶暴な性格のようだ。

 古代遺跡では番犬として飼われていた個体が、今もこうして残っている事があるという……。


「それから、ヘルハウンドは炎を吐くらしいので気を付けてください」

「嫌なパターンだ。しかし向こうの空間がどうなっているのかわからんと、対処のしようがないな」

「いっそこの壁をブチ抜いてみるのはどうかの?」


 まーた、この男は……。


「壁を壊すのは悪い方法じゃないですよ。問題があれば障壁の魔法で塞げばいいですし。でも、壁を壊す前に覗き穴を開けるのが先ですよね?」


 ユナがサキさんのフォローをしつつ、同時に打開案を示した。






 サキさん以外丸腰の状態でヘルハウンドとの戦闘になっては堪らないので、一度公民館に戻ってから装備を整えた俺たちは、再び横穴の壁まで移動した。


「もう一度レーザーソードに強化してから覗き穴を開けよう。日本の城に弓とか銃を撃つ穴があるだろう? ああいうのを作ってくれんか?」

狭間さまであるな? よかろう。やってみるわい」


 サキさんはレーザーソードを壁に突き刺したり、ぐりぐりやったりして縦長の覗き穴を開けた。それにしてもレンガまで切れてしまうなんて凄いな。


「こうも剣が分厚いと細かい作業はやり難いの」

「いつもご苦労さん。やはり剣に厚みがある分、切れ味だけではしんどいか。で、何か見えるか?」

「真っ暗よの……赤い点が二つ見えるわい。ヘルハウンドの目かの?」

「対象が見えてしまえばこちらのものです。まずは壁向こうの空間を明るくしましょう」


 エミリアは壁の向こうにある空間に向かって光の魔法を使った。



 明るくなった空間は円形の部屋になっていて、天井はそれほど高くないが、部屋の広さは直径5メートル……もう少し広いかな? と思う。

 問題のヘルハウンドは大型犬と言うよりは、比較対象を馬にした方がいいかも知れないほど大きい。

 真っ黒い体と真っ赤な目、四本の脚は不自然なくらいに筋肉質な造形だ。


「あんなのとまともにやり合うのは嫌だな」


 俺がヘルハウンドを観察していると、急に点いた明かりに戸惑っていたヘルハウンドが急に吠え狂ってこちらに突進してきた。


「ギャウゥンッ!!」


 猛烈な加速で突進してきたヘルハウンドは、壁の少し手前で頭が二つに割れた。見事なくらいに真っ二つだ……ヘルハウンドの頭が左右二つに割れている。

 全く意味不明だが、ぐったりとその場に伏せたヘルハウンドは何度かの痙攣を繰り返して、やがてピクリとも動かなくなった。



「何が起こったんだ?」

「障壁の魔法を縦方向に展開したのよ。自分で使っておいて何だけど、ピアノ線を張るよりもタチが悪いと思ったわ」

「障壁の魔法ですか……今のが?」


 エミリアが面食らった表情になった。ヘルハウンドからしてみれば固定した刃物に全力で体当たりしたようなものだ。

 敵の力を利用する意味ではワイバーン戦と同じ戦法だが……。


「大暴れ出来ると思うて期待しておったのだが、残念である」

「組み付いているときに炎を噴かれたらどうするつもりだ? 服はともかく髪の毛が燃えるのは嫌だろう?」

「そのための鉄兜であろうが?」

「……それもそうか」






 その後俺たちはヘルハウンドの絶命を確認して、覗き穴から部屋の様子を窺ったのだが、他に危険な魔物が居る気配もないので一度村へ戻ることにした。


「覗き穴は土の魔法で塞いでおこう。何か出てきたらかなわん」


 今のところ辺りはすっかり静寂に包まれている。状況証拠的に不気味な唸り声の正体はヘルハウンドの仕業だったということで落ち着いた。


「唸り声の件は解決したと思うが、あんなのが残っている古代遺跡は危険だな。やっぱり一度中に入って調べた方がいいのかもしれん」

「賛成します。あのクラスの魔物が外に出て暴れ回ると近隣の村は壊滅しますよ。討伐できる冒険者も限られてきます。絶対に放置できません」


 エミリアが珍しくまともなことを言った。露骨な正義感で隠してはいるが、この女の場合は単なる好奇心だったりするので侮れない。


「どちらにしても暗くなるわ。探索は明日からにしましょう」

「謎の唸り声は解決したし、今日から自分の家で寝てもいいですかね?」

「いいんじゃない? むしろ良く一人で見張る気になったな」

「本当は気味悪いから嫌なんですけど、男衆のまとめ役なんで仕方ないんです……」

「それは災難であったの」


 俺たちは洞窟に持ち込んでいたジムの机と椅子とベッドを分担して運びながら洞窟を後にした。聞けば交代も無かったらしい。可哀想だな。






 ジムの私物を家まで運んでから公民館に戻ると、テーブルの上には見慣れない鍋料理とパンの皿、そして果物が並んでいた。


「村の人が気を回してくれたみたいね」

「何だか悪いな。折角用意してくれた物だから、今日はこれを頂こう」


 大きな鍋で煮込んだ鶏肉と野菜は美味そうだ。自家製のパンも用意してくれているが、このおかずだと米の方が合いそうだな。


「アサ村の味付けは不思議なくらい口に合いますね」

「うん、なんでだろうな」


 ユナもアサ村の料理が気に入ったようだ。



 食事の後は、サキさん、ユナ、俺とティナとエミリアの順で風呂へ入ることにした。

 サキさんとユナが風呂から上がるまで、俺は精霊石の補充を、ティナとエミリアは魔霊石の補充を続けている。


「俺は偽りの指輪の能力で補充しているから特に疲れんが、そっちは自力で補充するから大変だな」

「一番最初に魔霊石を作ったときは結構疲れたけど、今は何個作っても大丈夫よ」

「私でも連続で作ると三個が限界ですけど、ティナさんは魔力の回復がとにかく速いですよね」

「確かに速いわね。個人的には魔法の威力を上げたいのだけど……」


 魔法の技術や練度以外にも、体質が与える影響は大きいみたいだ。中には魔法に不利な体質もあるようなので、そういうのに当たった魔術師は大変だろうな。


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