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第131話「公民館改造計画」

「村長さん、どちらにしても一度中に入って、本当に古代遺跡なら危険がないか調査する必要があると思うんですけど、出土した物に関してはどうなるんですか?」


 ユナが交渉に入る。唸り声の正体がわかる前に契約を済ませておく考えのようだ。


「それに関してはニートの皆さんで好きな様にして頂いて構いません。財宝が出るか魔物が出るかわからないのが古代の遺跡ですからな……魔物だったら倒せ、財宝だったら寄こせでは話にならんでしょう?」

「そうですね……わかりました……」


 ここの村長は欲が無いというか、交渉を始めたユナは肩透かしを食らった顔だ。



「肝心のジムが居ないわね。今回も彼に案内を頼みたかったのだけれど」

「ジムは洞窟で寝泊まりをして見張りをしておりますぞ。最悪の場合は領主様に助けて貰わねばならんですし……遺跡の場合は安全が保障されるまで、軍隊の駐留が長期間にわたった村もあると聞きます。正直気を使いますし、なんとか自分たちで解決したいものです」

「エミリア、そういうものなのか?」


 なんだか大事になる可能性もあるので、俺はエミリアに確認を取った。


「魔術学院に要請があれば協力するのですが、やはり冒険者のように自己責任で好き勝手にできる訳ではないので……遅々として調査が進まないケースもあると思います」

「それなら俺たちだけで何とかするのが一番良さそうだな」

「では今から洞窟を覗いて見るかの?」


 最初から完全武装のサキさんは、このまま遺跡に突入しそうな雰囲気だ。


「待ってサキさん。まずは今晩の寝床を確保してからよ」

「ふむ、今回は人数も多いようだから、村の公民館を使うのが良いですな」






 俺たちは村長に案内されて、村の端にある公民館に向かった。公民館は村を流れる川の近くにある。村の中心からは離れてしまうが洞窟へ行くにはこちらの方が近い。


「ここは自由にお使いくだされ。村の者へも周知しておきますゆえ、足りない物があればそこらの者に申してくだされば良いですな」


 村長は俺たちを公民館まで案内すると、そのまま自分の家に帰っていった。


 公民館とはいうものの、この建物は木の壁と屋根があるだけで床が無い。精々土の上に茣蓙ござを敷いているレベルだ。

 出入り口の扉にはもちろん鍵などは無く、木の棒が格子状になった窓が数カ所、物置きのスペースには、祭りや宴会で使いそうな机や長椅子が積み上げられている。


「公民館と言うだけあってそこそこ広いが、酷い物件だな」

「中央にある石で囲んだ場所が囲炉裏の代わりでしょうか?」

「土の水分を吸った茣蓙は、変色して腐っているわね……」


 これでは今晩の寝床も怪しいので、ティナの言う通り「今晩の寝床を確保」することが最優先であると思った。

 毎度の事だが、こういった案件はティナにリーダーを仕切ってもらう。



「サキさんは床の茣蓙ござを全部剥ぎ取ってから畑の肥やしにでもして来て。エミリアは床の土を魔法で石畳に変えて。豚小屋みたいな床を何とかしましょう」

「うむ!」

「お任せください」

「ユナは村長さんから綺麗な藁や茣蓙を調達して来て。運ぶのはサキさんがやるわ」

「わかりました」

「私とミナトは建物の裏側でお風呂場を作るわよ」

「わかった」


 ティナは村長が言った「ここは自由にお使いくだされ」を真に受けて、遠慮なく改造することに決めたようだ。






 公民館の裏側に回った俺とティナは、木の棒で地面に線を引いてから、その部分を土の魔法で掘り起こしている。


「公民館の裏側は山に面しているんだな。ここなら誰も覗きに来れないだろう」

「この山のせいで日当たりが悪くなっているのね」


 ティナが言うように、公民館は山の陰に入っていて日当たりが悪い。そのせいで床が湿っていたのだろう。


「ミナトは周りの地面を石畳に変えてちょうだい」

「結構面積が広いと思うが、やってみるか……」


 俺が地面を石畳風に変化させて行く間に、ティナは先程掘り起こした窪みを浴槽にするため、精神を集中させているようだ。

 俺とティナが掘り起こした窪みはちょっとした露天風呂のサイズになっている。調子に乗って掘り起こしていたら、思ったよりも大きくなってしまった。



「……それっ!」


 ティナが古代竜の角の杖を振るうと、窪みは御影石みかげいしに良く似た材質の浴槽に変化した。


「……これはちょっと疲れるわね」

「ティナも土の精霊石を使えば疲れないのに」

「流石に精霊石一個の容量じゃ足りないわよ。ザラザラしてると怪我をするから、表面を少し溶かしてみたわ……」


 表面を溶かすの意味がわからなかったので、俺は浴槽の表面を触ってみた。

 ……濡れたように見える石の表面は、触るとヌメヌメしている。丁寧に磨いたツルツルの感触とは少し違う。まさに「溶かした」ような触り心地だ。


「浴槽の排水側はスロープ状にしてあるのか」

「底にゴミが貯まるだろうから、簡単にかき出せるように工夫したわ」


 掃除のことまで考えて作ったのだな。俺も負けていられないので、多少デコボコにはなったが周りの地面を全て石畳に変化させた。






 風呂場を作った俺とティナが表側に戻ると、公民館の床には見事な石畳が敷かれていた。俺が作ったデコボコの石畳とは比べ物にならない美しさだ。


「流石エミリアね……魔法の技術だけは凄いわ……」

「確かにな。魔法だけは超一流だ……」

「何だか引っ掛かる言い方ですが、ありがとうございます」


 床が完成しているのを確認した俺とティナは、物置きに積み上げられている長椅子を並べて大小の簡易ベッドを作った。


「段差は長椅子の脚に小石でも挟んで調整すればいいわね……」

「あの、大きい方はミナトさんとティナさんとユナさんの三人で使うんですよね?」

「だな」

「小さい方は誰が使うんですか?」

「サキさんが使うわ」

「あの……私のベッドは……?」

「寝相が悪くて床に落ちるだろう? 石畳に落ちたら痛いぞ? エミリアは床で寝ろよ」

「何だか惨めなので私にもベッドを作ってください……」


 エミリアがへこみ出したので、仕方なく俺はエミリアのベッドも作ってやった。



 食事用のテーブルも必要なので、引き続き俺とティナが物置きから大きなテーブルを取り出していると、ユナとサキさんが戻って来た。


茣蓙ござは無かったが、代わりに大量の藁を持ってきたわい」

「足りなかったら言ってください。まだまだいっぱいありますよ!」

「じゃあ、適当に束ねた藁をいくつも作って敷布団の代わりにしましょう」

「わしに任せい」


 敷布団はサキさんが上手くやるそうなので、手の空いた者は荷馬車から荷物と装備を降ろす作業をした。


「もうお湯は出しておきましょう。家のお風呂より大きくなったのは誤算だったわ」


 真っ先に小型湯沸かし器を風呂場に移動させた俺とティナは、今から全力でお湯を溜めることにした。


「いちいち公民館の外周を回ってくるのはしんどいな。壁に穴を開けて直接行き来できるようにならんかな?」

「サキさんのロングソードをレーザーソードに強化して、バッサリ切って貰いましょう」


 俺たちは公民館の壁をブチ抜くという暴挙に出た。



「おお……これがレーザーソードであるか? うむ、これは気に入ったわい」

「ちょうどこの辺りだ。ここの壁をぶった切って出入り口を作ってくれ」

「良かろう。危ないから下がっておれ」


 サキさんはレーザーソードを構えて勢い良く壁に剣を突き刺すと、マグロの解体ショーのような感じで木製の壁を切り刻みながら出入り口を作った。


「切り抜いた木の壁が出入り口のフタとして機能しそうだな。重いけど……」


 俺は風呂場の一角に簡易テントを一つ張って、そこに石のかまどを作って調理場とした。

 どこに調理場を作ろうか迷っていたが、公民館の中から直接裏側に行けるようになったので、風呂場の横に設置するのが最適だろう。






 何とか今日の寝床を作った俺たちは、ユナが淹れてくれたハーブティーで一息付いていた。今日は良く働いたなあ……。


「そろそろ晩ご飯の用意をしようかしら?」

「もうそんな時間か。あとは風呂に入って寝るだけだな」

「今日はもうジムさんの所へは行かないんですか?」


 俺とティナは寝床を作ったことに満足していたが、そう言われるとジムの様子を見に行く必要があるな。

 俺たちは特に武装することもなく、ジムが寝起きさせられている洞窟まで足を運んでみることにした。ちなみにサキさんだけは完全武装のいで立ちである。


 ……前回の巨大ミミズの時に反省したことが全く生かされてないな。まあいいか、ジムとは初対面じゃないんだし。



 洞窟には片道十分も掛からずに着いた。前回は二十分くらい掛かった気もするが、今回は無警戒で進める上に公民館の位置が洞窟寄りにあるので行き来が楽なのは助かる。


 ──この洞窟は垂直の崖をスプーンで刳り貫いたような独特な形状をしている。


 俺たちが初めてゴブリンと戦った場所を抜けて洞窟の入り口まで近付くと、洞窟内に設置されているランプの明かりが見え始めた。

 洞窟の中は以前のように不衛生な状態ではなく、ある程度は片付けられている。今あるものは椅子と机、それに小さなベッドくらいだ。

 獣除けの焚き木は消えているようだが、まだまだ煙がくすぶっている。


「ジムはいないのか?」

「ジムはおらぬかーっ! ニートブレイカーズの参上であーる!!」


 サキさんは自分の籠手にグレアフォルツを叩き付けながら大声を出した。


『…………』


「……今そっちに行きまーす!!」


 洞窟の奥の物陰から声が聞こえる。死角になった裂け目から、ジムが顔を覗かせた。


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