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第122話「カニ鍋」

 家の中に戻った俺は、日が落ちて冷たくなる前に洗濯物を取り込んでから、下着以外の服やタオルを適当に畳んだ。

 サキさんの下着は超適当に畳んで部屋の前に置いておけば良いのだが、女物の下着は未だに畳み方が良くわからない。

 パンツの左右を折り畳む時にどっちから畳み始めるかとか、ブラジャーのカップを左右どちらに折り畳むかとか、そんなことまで言われ始めたら俺には手に負えん。


 サキさんのは四つ折りどころか、適当に丸めてても文句言わないので楽だ。



 洗濯物を畳み終わった俺はいよいよ暇になったので、調理場に居座ってティナの後姿を眺めていた。


「ユナが帰ってきたみたいね」

「蹄の音でわかるのか」


 勝手口の方を覗いていると、ハヤウマテイオウに乗ったユナの姿が見えた。

 ユナがハヤウマテイオウの世話をしていると、続いてサキさんも帰ってきたようだ。大体夕食時には切り上げて帰って来るみたいだな。


 俺はセルフ放置プレイを楽しんでいるであろうエミリアが居る広間へ向かった。






 俺が広間に行くと、当然のようにエミリアがテーブルの席に着いている。


「最近はティナと二人で魔法の練習をしているんだが、導師モーリンが使っていた金縛りの魔法はどうやって使うんだ?」

「あの魔法ですか……私も似たような魔法なら使えるのですが、導師モーリンの魔法は空間固定とでも言いますか、以前ユナさんが持っていた障壁の腕輪に近い感じなんですよ」


 言われて思い出したが、あのときのエミリアは絶対にバランスを保てない体勢のまま固まっていたな。空間ごとその場に固定されていたわけか。


「何だか難しそうだなあ」

「ミナトさんたちなら簡単にイメージできるのではないですか? この世界とは比較にならないほど高度な文明を持っているようですし……」

「この世界にはない知識を持っているのは確かだが、いちいち原理や物理法則を考えてしまう癖が出る。理屈臭くなってしまうから逆に難しいんだよ」

「あまり深く考えずに楽しんで使う方がいいと思いますよ。魔法を使う場合は、原理が曖昧でも魔力がそれを補ってくれますし。精霊力はある程度の法則に縛られますけどね」


 ということは、精霊力しか使えない俺は今まで通りでも良いが、ティナに関しては魔法に対する考え方を改めさせた方がいいのかも知れないな。

 俺がそんなことを考えていると、ティナが夕食を運んできた。ユナとサキさんもいつの間にかテーブルの席に着いている。



 今日の夕食はカニ鍋だ。ズワイガニのような気もするが、やたら足が太いので別の種類かもしれない。正体は不明だが迫力満点のカニだ。


「凄いカニですね」

「殻が硬い。これではちょっと割れないぞ」

「わしがナイフで裂いてやるわい」


 サキさんは調理ナイフを手にすると、竹を割る要領で次々とカニの殻を裂いていく。

 ある程度カニの足が揃ったところで、俺たちは一斉にカニを頬張った。


『…………』


 美味いんだけど、カニは身をほじくったりするのが忙しくて誰も喋らなくなるな。

 俺はカニの途中で鍋のつみれをつまんだリしている。



「ティナよ。今日は米ナシかの?」

「炊いてるわよ。具が減ってきたら雑炊にする予定だったけど、もう入れていいかしら?」

「うむ」


 サキさんは珍しく席を立って調理場から釜飯を持って来た。

 鍋にはほぐしたカニの身を散らして、そこへ炊きたての米を投入、最後に溶き卵をドバーッとかけて一煮立ちさせると、カニ風味の贅沢な鍋雑炊が仕上がった。


『………………』


 俺たちは満腹になるまで無言で食い続けた。今日の鍋は特別に美味い。






 食事が終わって鍋と御椀を下げる頃には、サキさんとエミリアはカニ味噌やら川魚の燻製やらをつまみにして酒盛りを初めてしまった。


「あっちは勝手に盛り上がっているだろうから、俺たちは先に風呂に入ろう」

「そうですね」


 俺はティナとユナを先に風呂に入らせて、調理場の後片付けをしてから風呂に入ることにした。

 後片付けの後はいつも裏の河原で生ゴミを焼く。強火の魔法で半ば強引に生ゴミを焼き終わった俺は、念のために水を掛けてから風呂場へ直行した。



「火で燃やしているから外の寒さは大丈夫なんだけど、薪ストーブを買う時は焼却炉も一緒に買わないとダメだな。ずっと後回しにしていたが火の粉が舞って仕方ない」

「そうね。ドラム缶の半分くらいの大きさでいいから欲しいわね」

「今日は無理でしたけど、明日は薪ストーブを買ってくるつもりだったので、ついでに買ってきますね」


 ああ、そういえば今日のユナは王都の観光遺跡を下見してきたんだっけ?

 体を洗い終わって湯船に浸かった俺は、今日の成果を簡単に聞いてみた。


「王都には観光遺跡が二カ所あるんですけど、本命の方は以前私たちが探索した遺跡よりも規模が大きかったです。両方回ってみたんですが、大きい遺跡は途中までしか探索できなかったくらいです」

「そんなにデカいのか。イベントでは二カ所とも参加するのかな?」

「いいえ、小さい遺跡は初心者や子供向けのイベントに使われるそうですから、私とハルは大きい遺跡に的を絞る予定ですよ」


 なるほど。達成者がいない年もあるような高難易度イベントしかないのは出し物として問題だと思っていたが、簡単な方のイベントもあるんだな。

 ただ、簡単な方だと賞品は出ないらしい。こっちは子供でも参加できるみたいだし、お化け屋敷のような感覚なのだろう。






 俺たち三人が風呂から上がると、サキさんとエミリアは広間に居なかった。

 いい時間だし銭湯に行ったのだろう。俺はテーブルに出しっ放しにされた酒とツマミの食いカスを片付けてから自分の部屋に戻った。


 部屋に戻った俺たちは、体に巻き付けたバスタオルを外して好きなように涼んでいる。

 ティナは裸のまま三面鏡の前で毎晩コロコロを欠かさないし、ユナは裸のまま少なくなった種類のハーブティーを適当に調合している。


 俺もバスタオルを外して三面鏡の前に立ったが、昼間に幻影のチンチンを付けて遊んでいたことを思い出して、自分の姿を見るのが妙に恥ずかしくなった。


 ちょっと体を拭くだけでも自分の乳が二の腕に引っ掛かる。こんな感触にも慣れたと思っていたのだが、今日に限っては違和感を感じてしまう。

 俺は早く服を着たかったので、股間と尻の汗を拭いてからパンツを穿くと、今日はノーブラのままでパジャマを着た。

 む。なんか解放感があっていいな。垂れ乳になったら怖いから寝るときもブラジャーを付けていたのだが、たまには外して寝るのもいいだろう。


「サキさん待ってると遅くなるから、もう寝てしまうか」

「そうですね……」


 俺とティナとユナの三人は、髪を乾かしたりと一通りの寝る準備をしてから、今日は自分たちの部屋でベッドに潜った。






 翌朝、三人同時に起き上がった俺たちは、寝ぼ助のサキさんを放ったまま朝の準備に掛かった。ティナは朝食を、俺とユナは朝の洗濯である。


 昨晩は使わなかったが、ナカミチが持って来てくれた小型の湯沸かし器のお陰で大たらいに直接お湯が張れるようになったのは有難い。今朝はすこぶる快適だ。


「これから先どうなる事かと思っていたが、真冬でも快適に洗濯できそうだな」

「浴槽の方からお湯を移さなくてもいいのは楽ですね」


 俺とユナが洗濯を終えた頃になってサキさんも起きてきたので、俺はサキさんとユナに脱水と物干しを任せてから、セルフ放置プレイをしているであろうエミリアの相手をしに広間へ移動した。



 俺が広間に移動すると、いつものようにエミリアがテーブルの席に着いている。

 最近のエミリアはちゃんと服を着替えているようだし、変な臭いもしないので風呂にもきちんと入っているようだ。

 ようやく普通な感じになってきたな。また今度服を買う時はエミリアも誘ってやろう。


「エミリアが最初に教えてくれた服屋だと、収穫祭が始まる直前辺りが一番冬服の品揃えがいいらしいな。今度一緒に行ってみるか?」

「是非お願いします。でも、下着だけはフワフワの店が良かったです」


 下着に関してはエミリアもフワフワの店がいいみたいだ。あの店の下着はキツくないのに吸い付くような肌触りで、一度でも着けたら病みつきになる。

 当分行ってないような気がするし、様子を見に行くのもいいかも知れない。


 俺とエミリアがフワフワの店の下着について話していると、ティナとユナが朝食を運んできた。



 今日の朝食はパンとサラダとスープの他に、練乳がけのイチゴが出てきた。


「ヤバいくらい酸味の強いイチゴだな」

「だの。練乳が無かったらよう食わんわい」

「こういう種類のイチゴなんですか?」

「カニのついでに買ってきたのですが、デザート向きではなかったようです。ちゃんと食べられるようにしてあるのは流石だと思いますが……」


 とは言いつつも全員パクパク食べているし、やはり練乳は最強だな。






 朝食が済んだので、俺たちはお茶で一息入れながら今日の予定を話し合っている。


「わしは昨日に引き続き、今日も戦闘訓練をしてくるわい」

「わかった」

「私は朝のうちに薪ストーブと焼却炉を手配しておきます。買ったものはお店の人に運んで貰うようにして、私はそのままハルと一緒に観光遺跡を調べてきます」

「ということは、荷物が届くまでは誰かが家に居ないといけないのか?」

「私が家に残っておくわ。花壇の手入れに家中の掃除と、やることはいくらでもあるもの」


 大体全員の予定が固まったようだ。



「さっきエミリアと話していたんだが、俺はちょっとフワフワの店に行ってくる。距離が遠いから白髪天狗は使わせてもらうぞ」

「良かろう。わしは宿までユナの尻に乗って行くかの」

「変な言い方しないでください」


 木剣を背負ったサキさんをハヤウマテイオウの後ろに乗せて、ユナたちは先に家を出た。

 俺は朝使った食器を片付けてから白髪天狗に跨る。


「秋物の時は行かなかったからな。新しい服が並んでいるか見てくるだけだ」

「気を付けてね」


 俺は花壇の手入れをしているティナに声を掛けてからフワフワの店に向かった。


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