表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/572

第121話「イリュージョン☆珍々」

 俺たちが布団の上に座り込んで、部屋に置く薪ストーブのサイズを相談していると、サキさんが銭湯から帰ってきた。


「む? 今日も下で寝るのであるか?」

「サキさんも自分の布団を持って来ていいぞ」

「そうする」


 サキさんは髪を乾かしに風呂場の方へ行ったあと、自分の部屋から布団を持ってきた。

 寝床が完成したので、俺たちは四人揃って歯磨きをしてから布団に潜る。


「サキさん、街の様子はどうでした?」

「水は殆ど引いとったわい。明日になれば元通りであろう。それから、ハルとジェイに観光遺跡の話をしてみたが、ハルはやる気だわい。ジェイは無理だの」

「ジェイはダメなのか? 盗賊らしいから期待していたんだがな」

「祭りどきは盗賊家業が忙しいと言うておったわい」


 ジェイのように若くて下っ端の盗賊は、祭りの期間中にモグリの同業者や、よそ者の盗賊が幅を利かせないように目を光らせる仕事があるらしい。

 盗賊家業も組織に所属していると大変なんだな。もっと自由気ままなのかと思っていたが。


 ……まあいいや。寝よう。






 翌朝目が覚めた俺たちは、朝食の準備をするティナを最優先にして朝の準備を済ませた。


 朝食ができるまでの間、サキさんは暫く使わないと決めたミシンの綿埃を払って、丁寧に油を差している。俺とユナは見ているだけなのも悪いので、床のゴミを掃除した。


「最後に埃よけのシーツを掛けておけば良かろう」


 実はミシンの手入れをしている最中にエミリアの姿が見えていたのだが、向こうから声を掛けて来ないので無視していたら、ティナが朝食を運んでくる時間になった。


 エミリアとの会話が無い朝は珍しいと思う。



「わしは今日から戦闘訓練をやるわい!」

「わかった」

「私の方も特に用事がない日は観光遺跡に入って下調べをしようと思います」

「サキさんが話を付けてくれたみたいだから、可能な限りハルを同行させるようにするといいだろう」

「そうですね。今日はサキさんと一緒に冒険者の宿に行ってみます」


 ユナとサキさんはこれから忙しくなりそうだ。


「私はそろそろ本格的に魔法の練習をするわ。場合によっては資料のある魔術学院に通うことになるかも?」


 うーむ。なんだか全員バラバラになってしまうな……。






 サキさんはリヤカーを付けた白髪天狗で、ユナはハヤウマテイオウに乗って冒険者の宿に出掛けてしまったので、俺とティナは二人で洗濯物を洗ってから、今日も家の裏手に回って魔法の練習をしている。


 ──とは言っても、練習しているのはティナだけなんだが。


「魔力を扱うタイプの魔法だと、俺は見学しか出来ないなあ」

「精霊力だけの魔法でも、まだまだ応用の幅はありそうよ? この世界の魔術師が知らない現象でも、私たちなら知ってる概念も多いから……」


 ティナが魔法の杖をかざすと、俺の目の前にプラズマのような電気の球が現れた。


「この電気玉からいかづちの精霊石を作れないかしら?」


 電気玉? わかりやすいけど相変わらずティナのネーミングセンスはヤバい。

 それはともかく、俺は空の精霊石を手に持って目の前の電気玉に意識を集中した。


「おお、作れる……不思議電池とは比べ物にならん精霊力だぞ」



 俺は調子に乗って雷の精霊石を2個作ってから、自分でも電気玉を出してみた。

 自分の目の前に出てきたプラズマ球のような電気玉は、パリパリと小さな音を立てながら大気中に放電を繰り返している。


「これなら協力プレイでいかづちの矢が現地でも作れる。不思議電池は卒業かな?」


 ティナが電気玉を維持している状態で、俺が偽りの指輪から雷の矢を作れば戦闘中でも補充が可能だ。

 今までは酸っぱい汁を沢山作って不思議電池から電力を吸い取る作業をしていたが、これからは氷の精霊石と同じような感覚で作業することができそうだ。



 その後もティナは氷の魔法で巨大な雪の結晶を作ったりして遊んでいた。


「魔力のみの魔法はやらないのか? 純粋なエネルギー弾とか──そういえば浮遊魔法って重力制御だよな? ティナが良く使う衝撃の魔法だと何に属するんだ?」

「衝撃の魔法は念力と強い力のイメージね。そこに重力と力加減のコントロールが加わると浮遊魔法になる感じなのよ」


 魔法の効果は最終的には想像力の産物なのだが、えらく複雑なことになってるな。


「ゴミ部屋事件の時に導師モーリンが使った金縛りは魔力で使える魔法だよな?」

「んー、私はその場に居なかったから良くわからないわ」


 あの場にいたのは俺とユナだけだったか……エミリアが一瞬で無力化されるくらい強力な魔法だったから、もし使えるなら覚えておいて貰いたいのだが。


「機会があれば教わりたいわね」






 ティナが夕食の準備をしに調理場へ向かったので、俺は自分の部屋に戻って引き続き魔法の練習をしている。


「…………」


 鏡の前で下半身だけ裸になった俺は精神を統一して、自分の股間に光の幻影魔法でチンチンを出した。


「………………」


 少し脚を開いて幻影のチンチンをぷらぷらさせてみたが、女の子の股間にチンチンがぶら下がっている光景は背徳的な違和感すら覚えてしまう……。


 毛がないから違和感なのか? 試しにチン毛とキンタマを追加してみたが、その部分だけが場違いなオーラを醸し出すだけであった。

 俺は幻影のチンチンを消してから何もない股間と見比べてみるが、何と言うか……何もない方が自然だ。女の子なんだからそれが当たり前なんだけど。



 正直なところパンツを穿いてもチンポジが気にならなくなったし、女の子の前でエロいことを考えてもチンチンが大きくなるリスクも消えたし、ムラムラするたびに発散しなくても良くなったわけで、この二カ月間はある意味とても快適だった。


 代わりに月一の生理が俺を悩ませているが──。


 試しに俺は、元気いっぱいのチンチンを自分の股間に投影してみたが、もう完全に変態だったのですぐに消した……いやでも! せっかくだからもう一度出してみよう。

 しかし幻影とはいえ元気いっぱいのチンチンが付いているのに、全くチンチンの感覚が無い状態では脳が疲れてしまうな。

 元の世界でのVRバーチャルリアリティー疲れもこんな感じになるのだろうか?


 まあいい。俺はちょっと──だいぶ大見栄を張って、立派なチンチンをぶら下げている自分の姿を鏡越しに映した。


 ううむ。なんだこの、もうチンチンいらない気分は……。

 身体つきもそうだが、顔が綺麗な女の子なのに立派なチンチンが付いている恥ずかしい自分の姿を直視するのは正直つらい。

 一応自分のチンチンをモデルにした幻影なんだが、たったの二カ月離れ離れになっていただけで、俺は自分のチンチンに対する愛情を失っていた。


 こんなことばかりしていたら本当に心が病んでしまいそうだ。


 俺は暫く一人で頭を抱えたあと、脱ぎ捨ててあったフリル全開の下着とスカートを穿いて一階の広間に下りることにした。






 気分を取り直して一階に下りると、調理場の方からナカミチが出てくるところだった。


「あれ? 来てたんだ」

「おう。小型の湯沸かし器が完成したんで持ってきたんだわ」

「おー、これで冒険中でもお湯が使いたい放題だな」

「使い方はデカい方と同じだから、今更説明するまでもねーだろ」


 ナカミチはふうと息ついて椅子に座ると、ティナが用意したハーブティーをちびちびと飲み始める。

 広間の木窓から玄関口を覗くと人力の荷車が置いてあった。わざわざ工房から歩いて持って来たのだろう。


「ナカミチは馬を飼わないのか?」

「そろそろ欲しいんだけどよ、ウチの工房は段々坂の途中にあるだろ? 馬小屋もねーし開けた場所に引っ越すまでは無理だわ。レンタル馬車はたけーから却下だし」


 なるほど。ナカミチの工房は階段みたいな坂道を上らないといけないので、無理に馬を飼っても取り回しが難しいだろうな。



「それで湯沸かし器の代金はいくら払えばいいかな?」

「いやあ、いつも茶と精霊石で世話になってるし、先日は鉄切りナイフも貰ったしなー」

「もう一人身じゃないんだから、きちんと工賃まで含めた請求をしてくれ」

「んあー。んー。じゃあ銀貨3700枚で頼む」

「工賃込みだぞ? 前の湯沸かし器より安いが大丈夫なのか?」

「あん時は銅が高かったからよ、今のレートなら銀貨3000枚もしねーわ」


 俺はナカミチに金貨74枚を支払って、ついでに解放の駒の専用ケースを手渡した。

 ケースの中には強駒つよごま1つと弱駒よわごま3つ、そして火の精霊石をいくつか入れてある。


「いやいや、報酬貰うだけでも気が引けるってのに、これじゃあ……」

「気にしなくていい。解放の駒は強駒3つと弱駒5つが専用ケースに入ってる状態が本来の形だからな。最近は余裕があるし、ナカミチが一セット分を持っていてくれ」


 俺は遠慮して押し返そうとするナカミチの手を取って、半ば強引に解放の駒を受け取らせた。


「今の数だと二人で明かりに使ったら余裕がないだろ? これからの季節は暖房に使うと薪も不要で便利だぞ?」

「じゃあ遠慮なく貰っとくわ。ぶっちゃけ足りない時も多いから助かる……」



 湯沸かし器の代金と解放の駒を受け取ったナカミチは残りのお茶をくいと飲み干すと、まだ仕事が残っているからと言って、そそくさと帰り支度を始めた。

 俺も玄関を出て、荷車を引いて帰るナカミチを見送る。


「なあ、ちょっと気になったんだけど、ナカミチって最終的にサーラをどうしたいんだ? やっぱり嫁にするのか?」

「んあ? いくら俺がロリコンでもあの年の子とリアル結婚はねーわ」


 そうかあ。そうだよな。サーラじゃなくても自分の父親くらいのおっさんに求婚されたらドン引きして家出しかねないだろう。

 まあ、ナカミチも現実の話では常識人ってことだな。



「サーラには……俺のオカンになって欲しいと考えている」


 ナカミチは赤く染まった顔を年相応の渋い表情で誤魔化しながら言うと、荷車を引いて森の中へと消えて行った。

 サーラママ……なるほど、無難な落とし所だと思う。ママなら小学生くらいの女の子でも特に問題無いだろうし、世間の理解も得やすいはずだ。


 ──そろそろ冷えてくる頃だな。ナカミチの姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、俺は家の中に入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ