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第104話「冒険の準備」

 昨日よりも寝覚めが良かった俺は、ユナと一緒に朝の準備をしてから広間に戻った。

 サキさんは一足早くに起きてからミシンをしているようだ。


 ……不自然なくらいサラッサラでキューティクル全開になった髪が目に留まる。


 昨日の夜からドライヤーの脇に魔法の櫛を常備したのだが、ちゃんとサキさんも使ってくれたようだ。


「……ぶっ!」


 一緒にいたユナが堪らずに吹いた。俺も噴き出しそうになったが我慢した。

 サキさんの髪があまりにも綺麗なので、もう直視できない。



「ちょっと、サキさんの髪がきれいになりすぎて直視できんのだけど!」

「…………」


 俺が調理場のティナに報告しに行くと、ティナは無言で肩を震わせた。

 ヤバい。美と健康の対極に生きる男がキューティクルだと笑いが込み上げてくる。三つ編みにしたり俺のリボン付きのバレッタ付けたりして遊んでやりたい。


 俺は笑いを堪えすぎて腹が痛くなった。


 調理場で気分を落ち着かせた俺は、一人放置プレイ中のエミリアの相手をするために再び広間へと戻った。






 広間に戻ると、日課の放置プレイを楽しんでいるエミリアが居た。エミリアは特にサキさんの髪に疑問を持っていないようだ。


「エミリア、巨大ミミズをやることになった。情報をまとめた紙があるんだが、モロハ村ってどの辺りになるんだ?」

「モロハ村ですか……?」


 エミリアは広間の壁に貼り付けてある無数の地図を指さして説明してくれた。こういう時は地図があるから便利だな。


「大体この辺りなんですが……地図には名前がありますけど、モロハ村は良く災害に会うのでもう誰も住んでいません。いわゆる廃村ですね」


 廃村かあ。位置的にはマラデクの町から少し戻って、銅の採掘場に繋がる道を過ぎた辺りで南下する感じか。随分距離があるな。


「一応途中に村がありますよ。ここの……ハタ村です」

「うーん、街道から南下して一気にモロハ村まで行くのは距離的に無理そうだな」

「道が狭いと思いますし、今の時期だと湿地帯ですからね。馬車がハマると大変です」


 エミリアと話し合った結果、出発は明日の朝、マラデクの町まで毎度の儀式テレポートで飛んでからハタ村で一泊、翌々日中にモロハ村へ到着する予定を立てた。

 それから今回は、エミリアの四頭引きを二頭引きに変更して、足りない二頭分を白髪天狗とハヤウマテイオウで補充することにした。


 道中の算段が付いた頃を見計らって、ティナとユナが朝食を運んでくる。キューティクルが気になって仕方がないユナはずっと調理場に避難していたようだ。



 今日の朝食はチーズを練り込んだパンに、オニオンスープとサラダが付いてきた。


「チーズ入りのパンで思い出したが、チーズの鍋にフランスパンを突っ込むやつ、あれ一度やってみたい」

「チーズフォンデュですね」

「わしもやりたい」

「じゃあ少し高価なチーズと白ワインを買って行きましょう」

「エミリア、高価なチーズと白ワインだ」

「用意しておきます」

「赤ワインじゃダメだからね」


 朝食が終わって一息ついたので、俺は今日の予定を立てることにした。



「出発は明日の朝からにする。今日は明日に備えた行動をしよう」

「私は厚手の毛布を買ってきますね」

「私は家の掃除と食材の整理ね。一週間近く帰って来れないのよね……」

「予定だとそうなるなあ……」

「わしはミシンでもして一日潰すかの」


 俺はどうするかな? ティナの手伝いか? いや……


「午前中、サキさんは俺に付き合え」

「何をするのだ?」

「良く考えたらミミズについて何も知らん。小さいやつでいいから予習したい」

「うむ、よかろう」


 サキさんはツヤッツヤの髪をいつものポニーテールにした。






 俺はサキさんがミミズを獲ってくる間に花壇の手入れと水やりをしている。


「良いのがおったわい」


 サキさんは素手で持った太いミミズを俺に手渡してきた。


「バカタレ。このミナトちゃんがミミズを素手で触れるとでも思ったのか?」

「咬まぬ、刺さぬ。どこが不満なのだ?」

「怖いの! もう……こっち向けんなハゲ!! 地面に置けよ」


 サキさんは地面にミミズを置いた。


「うーん……」

「眺めるだけではわかるまい。切ったり焼いたり凍らせたりせんのか?」

「ユナみたいなこと言うな。これに水を掛けたら数倍に伸びるのか?」

「さあの。元の世界のミミズは水で伸びたりせんからの」

「それもそうか。まあ、地面を湿地帯っぽくしてどう動くのか観察してみよう」


 俺は水の精霊石で地面を水浸しにしてミミズの動き方を観察した。


「……あんまり元気ないな」

「だの」

「目も耳も鼻も無いのに、どうやって行き先を決めてるんだ?」

「知らぬ……温度かの?」


 俺は火の精霊石で出した火を近づけてみた。ミミズは踊るように動いた。


「いやあ……生物全般の弱点を近づけたらみんなこうなるだろう……」

「やはりわしとミナトの頭では無理があるのではないかの?」


 少なくともサキさんと一緒にはしないで欲しい。だが俺にミミズの知識なんて微塵も無いことは確かだ。

 俺とサキさんは地面にしゃがんだまま暫くミミズの行動を観察していたが、日の光にテカテカとその身を光らせていたミミズは、頭をぐるりと回して土の中に潜り始めた。


「ミミズって頭からしか土に潜らんのか?」

「普通そうではないかの? 尻尾から潜るなんてのは聞いたことも無いわい」

「なるほど……」


 暫くミミズが潜って行く様子を二人でぼーっと眺めていると、ハヤウマテイオウに荷車を牽かせたユナが帰ってきた。






 ユナが新しく買ってきた厚手の毛布は、昼間のうちに干すことになった。

 毛布は全部で五枚、エミリアの分も買ってきたらしい。


「かなり分厚いなあ。これは荷馬車が無いと持ち運べないぞ」

「冬用を買ってきたんですよ。これでどうなるのか様子を見たいです」


 この毛布で寒かったら冬の間は大人しくしておくしかないだろう。



 毛布を干した俺たちは特にやることが無くなったので、サキさんはミシンを始めてしまったが、俺とユナは家の掃除を手伝う事にした。


「ありがとう。でもあとは離れの掃除くらいよ?」


 日頃からマメに掃除をしているとこういう時に楽だな。俺は馬小屋、ティナは便所、ユナは勝手口から離れまでの通路を掃除した。


「馬小屋は変な虫が湧かないように、汚れた土は外に捨てておいて」

「ほいほい」


 離れの掃除は三十分も掛からずに終わった。最後の仕上げに俺とティナの魔法でゴミを燃やしてから、家を空ける準備は完了した。



「そう言えば、小型の湯沸かし器はまだ出来てないのか?」

「魚で何日も遊んでいたせいで仕事が溜まって大変らしいですよ。ずっとサーラに怒られてました」

「まあ……」


 今回の冒険には間に合わなかったか。仕方がない、次の冒険までに期待しよう。

 俺はユナが買ってきた鏡をドライヤーの所にぶら下げた。


「ここは湿気があるから錆ないように油で拭いておかないとな」






 ティナが夕食の準備を始めたので、俺とユナは冒険に持ち出す荷物を広間の玄関前に集めている。


「使わんと思うけどテントは一つ持って行こう」

「着替えも一週間分必要ですね」

「今回の武器は弓と魔法の矢だけでいいな。防具は要らないか……どうせ踏みつぶされたら意味ないしな。サキさんはどうする?」

「そうだのう……わしは礼儀として鎧とマントは付けておかねばと思うわい」


 サキさんはミシンの手を休めることなく答えた。そういう考え方もあるな。


「私たちは無くてもいいですよね? 荷馬車が手狭になりますし」

「今回はドライヤーを持ち運ぶ予定だからなあ……」



 ある程度持って行く物が決まったところで、残りの作業はユナに任せて俺は魔法の矢と精霊石の確認を始める。


 精霊石のストックはもう十分すぎるくらいに用意しているが、問題は魔法の矢だ。

 今のところ氷、いかづちの矢が各4本、未使用の矢が85本残っている。

 ちなみに炎と風の矢も作ってあったのだが、すぐに作れる種類の矢は収めるときに精霊力を抜いてある。特に炎の矢が家の中で炸裂したら堪らんからな。


 エミリアのアドバイスでは氷と雷が有効らしい。水をふんだんに溜め込んでいるだろうから当然と言えるだろう。

 俺は氷の矢を8本、雷の矢を16本まで増やして、足りないときは現地で追加することにした。不思議電池以外の方法でも雷の矢が作れたら楽なのだが……。



 俺が魔法の矢を作り終える頃には、エミリアが一人放置プレイをしていた。


「エミリア、明日の朝出発する前に、マラデクの町で風呂付きの宿を調べておいて貰えんか? そこそこ高くて変な客層が居ない宿がいい」

「マラデクの町に寄るんですか?」

「前回はワイバーンが腐るとか言って素通りしたからな。あの時ユナが行きたがってたから今回は立ち寄るつもりだ。まあ全員無事に帰れたらの話だけど」

「では調べておきます」


 俺とエミリアが宿について話していると、ティナとユナが夕食を運んできた。


「冒険前夜の肉野菜大盛り中華丼も恒例になったなあ」

「そうねえ……」

「私はいよいよ冒険に出るって気分になりますけどねー」


 今日は食事の後にダラダラすることもなく、サキさんはすぐ銭湯に行き、ティナとユナは風呂に入った。俺は今日も食後の片付けをしてから風呂に入るつもりだ。


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