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第101話「ドライヤー作った」

 俺が家の裏手に回ると、いよいよ燻製部屋を開けようとするところだった。

 エミリアは魔法を使って石壁の端に少しずつ切れ目を入れるような感じで石を砂に戻している。切れ目が入ったところでサキさんとナカミチが石壁を取り去って行くという作業のようだ。

 ちょっと近付くのは危ない感じだ。ここはあの三人に任せておこう。


 燻製部屋の一面を取り払うと、中には魚を乾かしていた時に使っていた木箱がそのまま敷き詰められた状態になっているようだ。

 三人はその木箱を両手に持って、勝手口の方へ向かってきた。


「上手くできた?」

「最高の出来だなー!」


 ナカミチは満面の笑みで答える。どうやらかなりの自信があるみたいだ。


「サキさんもお疲れ。エミリアはいいとして、ナカミチ飯はどうするんだ?」

「サーラに任せっきりなんで早めに帰るわー」


 ナカミチは持参したきれいな木箱に自分の取り分を詰め込むと、そのまま工房に帰って行った。あのおっさん、サーラを放置して魚獲りに興じていたのか……。

 この三人をここまで夢中にさせる川魚の燻製、一体どんな味がするんだろう?


 サキさんとエミリアは残りの木箱を燻製部屋から取り出してくると、サキさんは新しい木箱に燻製を移し替えて、エミリアは魔法で石の燻製部屋を崩した。


 飲兵衛パーティーの道楽クエスト、これにて無事終了だ。






 俺とサキさんとエミリアの三人は一度玄関に回って家に入ったのだが、家の前には見慣れない荷車が置きっ放しになっていた。

 荷車にはユナとナカミチが何かを話し合っていた時の小さな薪ストーブが載せられたまま、他にも排気用だと思われる配管が数種類置かれている。

 後でユナに聞けばいいかと、俺はあまり気にせずに家の中へ入った。


 もう辺りはすっかり暗い。本来ならエミリアが一人放置プレイを楽しんでいる時間だ。外に居ると肌寒い。


「あれ? ユナは出掛けてるのか?」


 俺は体が冷える前に調理場に行って湯たんぽに新しいお湯を入れたのだが、換気のために開けっ放しにしている勝手口から見える馬小屋に、ハヤウマテイオウの姿はなかった。


「少し前に出ていったわね。金物屋さんに行くだけだから、すぐ帰って来るって言ってたけど……」


 夕食を作っているティナが答えた。まあユナなら暗い夜道でも大丈夫だろう。俺よりもしっかりしていると思うし……。

 俺は広間へ戻ってエミリアの相手をすることにした。






 広間では黙々とミシンをしているサキさんと、その隣でほったらかしにされたエミリアが椅子に座っている。

 何日か一緒に過ごしても、特に親睦を深め合った訳ではなさそうだ。


「そう言えば燻製で思ったんだが、この世界には温度計って無いのか?」

「ミナトさんが考える物と同じかわかりませんが、温度によって色が変わる宝石ならありますよ。薬師くすしの先生が薬を作るときに良く使っています。棒の先に精霊石より少し小さいサイズの宝石が刺さっているんです」

「へえ、魔道具じゃなくてもあるのか。普通に手に入るのか?」

「必要なら持ってきましょうか? 魔術学院では良く使うんですよ。実験や薬の調合に必要ですからね」

「じゃあ頼む。新品が良い。料理に使うから変な実験に使ったやつだと怖いし」

「そ、そうですね。わかりました」


 温度計ではないものの、温度の目安になる道具はあるようだな。やはり一度は聞いてみるものだ。

 俺とエミリアが話をしているとユナが帰ってきたので、ここで夕食となった。



 今日の夕食はハンバーグだ。ティナが気を利かせて俺の好物にしてくれたのだろう。先日のハヤシライスの時に作ったデミグラスソースを濃い目にしたソースがかけられている。


「もう毎日これでいいな」

「お主前にも同じことを言うとったの」

「ミナトさんホントにハンバーグが好きなんですね」


 ハンバーグがおかずなら小指の先っぽくらいのサイズでも茶碗半分は行けるぞ。






 食後に一息付く間もなくサキさんは銭湯に行ってしまい、ティナとユナも先に風呂に入ったので、だいぶ調子の良くなった俺は食後の後片付けをした。


「ミナトさん、上がりましたよー」

「んー、わかったー」


 昨日と同じように、ユナは一足早く風呂から上がったので、俺はティナが入っている風呂場に向かった。


「今日は酷かったなあ。湯たんぽかなりいい感じだから、ティナも使うといい」

「そうさせて貰うわね」


 俺は今日もティナのおっぱいを見ながら静かに風呂に浸かっている。ティナのおっぱいは俺たち三人の中だと一番小さいのだが、何とも言えない魅力がある。


 もう隠す必要はないだろう。俺はティナのおっぱいで赤ちゃんプレイがしたい。


 俺は欲求不満で自分のおっぱいを触ったが、何だかいつもより硬い感触で今朝感じた違和感が残っている。掌ならそうでもないが、腕を押し当てたりすると違和感がある。

 おっぱいの違和感もそのうち収まるとは思うが、なんか変な感じだな……。



 風呂から上がった俺とティナは、バスタオル一枚で部屋に戻ろうとしたが、勝手口の外が明るい事が気になって覗いてみた。


「ユナか。何やってるんだ?」

「ドライヤーの実験ですよ。火を使うので外で試してたんです」


 荷車の上に置かれた小さな薪ストーブの中には、解放の駒と火の精霊石が入っている。魔法の火を焚いているようだ。

 良く見るとストーブの排気管を適当な高さで折り曲げて、排気口に解放の駒と風の精霊石を置いて風を起こしている。


「ファンヒーターみたいね。風の精霊石の置き場所はそこにするの?」


 ティナが排気口の微妙な位置に置かれた解放の駒を指差すと、ユナはその理由を説明し始めた。


「はい。実は解放の駒で出せる風……魔法の風も同じだと思うんですけど、どうやら周りの温度と同じ温度の風が生まれるみたいなんですよ。なので排気管の温度を利用すれば簡単に温風が作れると考えたんです」



 解放の駒に風の精霊石を乗せると風が生まれるが、それは扇風機のような風ではなく精霊石から直接風が生成されているような感じになる。

 ユナの発見が本当なら温風に関しては難しい装置を作らなくても良いという事だ。


「凄い発見だな。水でもそうなるのか?」

「真っ先に思い浮かんだのですが、水の魔法だと水温は一定みたいです」


 湯沸かし器の小型化ができると期待したのだが、それは無理か。前にエミリアも直接温水は出せないと言ってたしなあ。


「今の状態だと風の精霊石がストーブの中に落っこちそうで怖いわね」

「排気管が長くなるとストーブ本体の安定性も悪いので少し改良が必要です」

「ちょっと危ないから、問題点が解決するまではこの場所で使おう」



 とりあえずバスタオル一枚のままでは辛いので、俺とティナは部屋で服を着てからもう一度勝手口の外に出た。

 ユナは髪を乾かし終わったようなので、俺も温風で髪を乾かしてみる。


「おー。普段より髪がふっくらしてる感じだ。冷風だと乾きはしても最近は湿ってるような感触があったからな」


 俺とユナは、ティナが髪を乾かしている間、ナカミチに作ってもらった手鏡で自分の顔を見ている。ユナは髪が長いのでそうでもないが、髪が短い俺は少しボリューム感が出ていい感じになった。


「やっぱり温風だと楽ね。風量もあるからもう乾いたわ」


 それからすぐにティナの髪も乾いたようだ。脚の付け根ほどもある長い髪だが実際かなりの風量なので、温風も手伝って乾くのが早かった。

 こんなに使えるものなら、すぐにでもちゃんとした物が欲しい。

 使い終わったので火箸ひばしを使って解放の駒から火の精霊石を外したものの、薪ストーブは排気管も含めてカンカンに熱されている。


 やはりこのまま家の中で使うのは危険だなあ……。






 髪が乾いたので部屋に戻った俺たちだが、荷台の事が気になっていたのでユナに聞いてみた。


「荷物が大きい時に毎回不便なので買いました。いつも使ってるリヤカーを作った職人さんの荷車だったので物は確かですよ」

「買ったのか。まあ、店から荷車を借りたりするのは不便だったよなあ。返却しに行くから街まで二往復になるし」

「あの荷車は人力の時に手を掛ける棒の部分が自由に取り外しできるんですよ。人でも馬でも引けるように作ってあるので便利だと思います」


 なるほど。それはいいアイデアだな。


「雨ざらしは良くないから暫くはオーニングテントの下だな。ドライヤーも暫くはあそこで使うことになるだろうし」


 しかしあのドライヤーは、薪ストーブ自体が熱くなって本来の役目を果たすので、外で使っても焚き木くらいの暖房能力があるのは救いだ。

 サキさんが帰ってきたらドライヤーの使い方を教えておこうと思ったが、洗濯して歯磨きして三人で便所を済ませても帰って来ないので寝ることにした。


 もちろん寝るときも湯たんぽを使ったが、腰に巻くと寝返りが打てないので腹に抱いて寝た。






 翌朝、昨日と比べれば少し体調が良くなった俺は、いつものようにユナと一緒に朝の支度をしてからエミリアの待つ広間へ戻った。

 俺は今日もパジャマのまま腰下に湯たんぽを背負っている状態だ。今日も一日外に出ない決意で、セルフ放置プレイ中のエミリアを相手にしている。


「昨晩話に出た温度を測る道具を持ってきました」


 エミリアはテーブルの上に置いていた長方形の小さな白木の箱を俺の方へと差し出した。高価そうな箱だ。道具ではあるが宝石と言っていたから、それなりの値段はするのだろうな。

 温度を測る道具は、ガラス棒のようなスティックの先に、ビー玉よりも一回り小さな玉が取り付けられていた。

 箱の底には数枚の紙が入っていて、色の変わり方や調合の基本などが丁寧に説明されている。


「学校の教材みたいだなあ……」

「学院の備品ですから」


 それもそうか。目盛りも数字もなく色で温度を見分けるのは思ったよりも難しそうだが、後でティナに渡しておこう。

 この道具の名前は特に捻りもなく「温度石」とか「サーマルジュエル」と呼ばれるそうだ。我がパーティーなら温度石の方がしっくりきそうだな。

 俺が温度石を握ったりして遊んでいると、ティナが朝食を運んできた。



 今日の朝食はピタパンに野菜と肉を包んで好き勝手に食える感じだ。

 懐かしいな。アサ村で食ったやつだろう。流石に肉の丸焼きまでは無理だがタレは同じものを使っている。美味かったので俺は朝から三つも食ってしまった。


「ミナトのせいで量が足らん。ティナよ、何か握ってくれい」

「サキさんはバナナでも食ってろよ」


 俺はテーブルに置かれているバスケットから適当にバナナをちぎってサキさんに渡した。


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