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第99話「うたた寝と将棋」

 なんと言いましょうか、朝目が覚めてパンツ越しに触ってみたが、股に挟むやつはそんなにズレた様子もなくて安心した。

 前回は横に向いて寝ると太ももで潰れるわ、立ったり座ったり歩いたりすると何かと擦れるわで色々大変だったが、今回はかなりマシになっている。


 俺はユナと一緒に朝の準備をしてから昨日設置した弱駒の精霊石を全て交換すると、エミリアの相手をユナに任せて調理場に居座っていた。


「エミリアの相手はいいの?」

「気分的に貧血でナーバスになってるから無理っぽい」


 結局俺は朝食を運ぶ時まで調理場に居座ってからテーブルの席に着いた。



 今日の朝食はフレンチトーストにサラダという軽めの朝食だ。気分が沈んでいるときは軽い方がありがたい。サキさんとエミリアのトーストは二枚だが……。

 最近のこいつらは最初から二人前が主流になりつつある。一人前の量が女の子基準なので、まあ妥当な所かも知れない。

 サキさんはともかく、エミリアはそのうち太り出すだろうがな。


「今日は何するかな?」

「わしは魚の見張りで疲れたから、少し仮眠するかの」

「そんなことしてたのか?」

「一応はの。明日には乾燥も終わってナカミチと燻製にするわい」


 意外と大変なんだな。動物除けのネットでもあれば違うのだろうが。


「私は暖炉周りの家具を揃えてきますね。薪ストーブとミンチ機も見てきます」

「暖炉横に投げてる木剣とか、上手く収められるようにしてくれんか?」

「どうせ裏の河原でしか使わないので、傘立てのような箱に立てて薪置き場の辺りに置きませんか? 木槍は物干し竿と同じ扱いでいいと思います」

「また物干し竿扱いか……」


 サキさんはガックリと肩を落として自分の部屋に戻って行った。


「私は暖炉周りの掃除と、掛け布団と毛布を洗濯するわ」

「俺も。ぐしぐし下っ腹が痛みだす前に毛布洗うの手伝うとするか……」


 今日の活動内容が決まった俺たちは早速行動に移した。






 俺とティナは先に毛布を洗濯している。てっきり暖炉周りの掃除から始めるのだと思っていたが、乾きにくい物から片付けるとティナが言うのでそうしている。


「ペラペラだから洗うまでは大丈夫だけど、数が多くて疲れるわね」

「八枚もあるもんな」


 元々は四枚だったが、遺跡探索の道中に買い足したので八枚になっている。

 流石にちょっと大きいので、濯ぎ作業は浴槽に溝付けだ。脱水機に挟めるサイズではないので、毛布は二人掛かりで適当に絞った。

 絞っていて感じたが、パーティーで一番腕力がない二人組でやる仕事ではない。

 半分に畳んだ方に木剣を差して絞ったりもしたが、それでも毛布を干すと下に水滴が落ちてしまうレベルだ。


「まあ乾かないってことはないだろう」

「風を当てていれば大丈夫よ。しかしサキさんの木槍が早速物干し竿になったわね」


 物干し竿一本につき毛布が二枚掛けられるから、うちにある物干し竿二本と木槍二本でちょうど八枚、さらに携帯用の物干し竿に掛け布団を二枚。


「物干し竿が足りんな。重すぎるんであまりやりたくないが、グレアフォルツ君にも出て来てもらうか……」

「サキさんが気に入ってる物だからやめておいてあげましょう」


 俺とティナは暫く勝手口を見渡しながら考えたが、離れとオーニングテントの取り付け位置にロープを渡して、残りの掛け布団とサキさんの服を干した。


「物干し竿なんて飯より安いものだし、何本か買い足しておこう。きっとまた足りなくなるぞ」

「予備の物干し台も必要ね」


 洗濯が終わった俺とティナは、暖炉の回りも掃除した。毛布の洗濯にかなり手間取ってしまったので、もう昼になろうとしている。






 俺が広間のテーブルで休んでいると、のっそのっそとサキさんが起きてきた。ちゃんと長袖を着ている所を見ると、サキさんでも肌寒いのだろう。


「サキさん、今から物干し台と竿六本買ってきてくれんか?」

「うむ。代わりに魚見張っといてくれえ」


 サキさんは本日二度目の朝の支度をしてから、そそくさと歩いて出ていった。

 物干し台は左右で二本必要だし自立転倒防止用に石の重りも付いてくる。それに加えて竿六本なんて冗談半分で無茶振りをしたんだが、まさか本当に買いに行ったのだろうか?

 俺は良心が痛んだので、真面目に魚の見張りをすることに決めた。



 家の裏の壁に立て掛けている魚の入った木箱をチェックしてみるが、特に問題は無さそうだ。俺は弱駒に乗せてある風の精霊石を交換した。

 明日には乾燥も終わるようだが、こんな無防備状態ではいつ何が寄ってくるかわかったものじゃないな。

 しかもこの場所、座る所がない。石の魔法で腰掛を作ってもいいが、硬い地面に座り続けるのは今の俺にはつらい。


 何か外で使える椅子とテーブルが欲しいな。






 俺が真面目に魚の見張りを続けていると、ユナが帰ってきたようだ。


「あ、ミナトさんそこに居たんですか?」

「サキさんに言われて魚見張ってたんだよ。椅子もないからいい加減疲れた」

「それはお疲れ様です。そのサキさんは家に居ないんですか? 家具を買ってきたので手伝って欲しかったんですけど……」


 そう言えばユナは暖炉周りの家具を買いに行ってたんだった。俺はサキさんに無茶振りしたことを言って、何とか三人でやることにした。



「まずカーペットを床に敷いてからね……」


 部屋で何かをしていたティナを呼んで、俺たち三人は家の前に集合している。

 ハヤウマテイオウには家具屋で借りた荷車が繋がれている状態だ。

 荷車には、暖炉の前に敷く高そうなカーペット、長方形のローテーブル、一人掛けのソファーが二脚、三人掛けのソファーが一脚、三人掛けの方は誰かが寝転んで一人で使いそうな感じもするが……。

 それに加えて木剣を立てる細長い箱も買ってきたようだ。


 俺たちはまずカーペットを敷いてソファーを家に持ち運んだ後、最後にローテーブルを運ぼうとしたのだが、これが見た目より重かった。


「天板の石が重いんだろうな。腰痛めたら後々困るしサキさんが帰って来るまで待とう。これは無理だ」

「家具屋のおじさんは普通に持ってたんですが、仕方ないですね……」


 俺は薪置き場に追いやられた木剣を細長い箱に刺してから、また魚の見張りに戻った。






 それから暫く経って、ようやくサキさんが帰ってきた。

 俺が言った通り、物干し台と物干し竿を六本肩に担いで、石の重りは麻袋に入れて反対の肩に担いで持ち帰ったようだ。

 しかも家に帰ってきた直後に、あのクソ重いローテーブルを家の中に運ばされている。俺は少し休めと言いたかったがユナは容赦がなかった。


「お疲れ。魚の方は無事だぞ」

「うむ……」


 サキさんは家の裏の地面に座り込むと、休息を兼ねて見張りを始めた。


 暖炉周りは完成した。物干し竿も八本になって大物を洗濯しても干し場に困ることは無くなっただろう。

 残るは薪ストーブだ。どのタイミングでどんな大きさのをいくつ買おうかと考えながら、俺は三人掛けのソファーに寝転んでいる。

 先日買った秋物のスカートはひざ丈くらいあるので、ソファーの肘掛けに足を乗せてもぱんつが見えないのは助かる。ここは俺の定位置になりそうだ。


 頭の所にクッションが欲しい……。


 …………。


 ………………。






 すっかり寝てた。


 気が付くと誰かが俺に毛布を掛けてくれている。俺は木の肘掛けで痛くなった頭を掻きながら体を起こそうとした。


「起こしてしまいました?」

「大丈夫だ。どのくらい寝てた?」

「まだ夕方になってませんよ」


 一人掛けのソファーにはユナとサキさんが座って、適当に作った盤面の上で将棋をしている。


「……詰んでしまいました」

「え? サキさんが勝ったのか?」

「うむ」

「まじか。バカだと思ってたのに」

「失礼な! まあ良い、ミナトも相手をせい」

「いいぞ。伊達にパーティーのリーダーしてない所を見せてやる」

「ミナトさん、サキさん本気で強いですよ」

「あれ? 銀って正面にも動かせたっけ?」


 ……俺は負けた。サキさんは得意気な顔でニンマリと笑う。

 今のはバカにした目だ! むかつくーっ!!


 俺は毛布をベッドに戻してから、部屋着に買った上着を羽織る。そろそろ日も暮れそうだ。そういえば朝干した毛布は乾いているだろうか?



 勝手口を出て干してある毛布を触ると、何とか乾いているようだった。風を当てていたのが効いたようだ。

 掛け布団の方も大丈夫そうだったので全部取り込むことにしたが、流石に枚数が多い。俺は引き続き将棋をしているユナとサキさんにも声を掛けた。


「夏用の掛け布団は一応保険としてまだ使うことにしよう」

「そうですね。このペラペラの毛布はどうしますか?」

「サキさんはこの毛布を二枚持ち出してたよな? 山の中で使ってどうだった?」

「寒かったわい。テントは使えん。焚き木の前で寝るしかなかった。いきなりの雨で余計に寒かったがの」


 それならもう、ペラペラの毛布は収めてしまっても良さそうだな。

 冒険用は別口で厚手の毛布を買うしかないか……。


「この際かさばるのは仕方ない。野宿を考慮した厚手の毛布を買おう。これは冬場が寒いとか以前に、装備の貧弱さで冬場の冒険が厳しいと言われているだけかも知れないな」

「わしが体験した限りでは、そんな感じがしたの」


 今ある冒険用の毛布は、背負い袋やテントを置いてある場所に収めておこう。






 夏用の掛け布団を各部屋に持って行ったり、ペラペラの毛布を収めたりしていると、いつの間にかエミリアがテーブルの席に着いて放置プレイを楽しんでいた。

 エミリアの顔を覗くと、朝とは違って若干げっそりしている。


「どうした?」

「図書館に返却した本なのですが、勝手に持ち出した犯人が私だとバレてしまって随分怒られました」

「俺は図書館と私物の本を別けていたはずだが、全部図書館に置いてきたとか?」

「まったくその通りです。失敗しました」


 エミリアは胸を張って答えた。肝だけは据わっているが詰めの甘い女だなあ。


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