作戦変更
家を見上げると、少し身体がほっと安らぐ感覚がした。
写楽が扉をノックし、中から「はーい」と女性の声がし、女性が扉を開いた。
「お帰りなさい、薫――え、あ、……百合様?!!」
一緒にいる百合を見ると、女性は顔を真っ赤にし、きゃーーー!!と黄色い声をあげかけた。
百合は、女性の口元に指先をあてて。
「静かに――そう、静かに。良い子」
と、妖艶に笑った。百合、何処でそんな仕草覚えてきたのかな?
「か、薫、どうし、どうしたの、百合様連れてきちゃって!」
「すみません、僕の姿も認めてくださいませんか。初めまして、わたくしこういう者です」
やけに明るい笑みを浮かべた写楽が、何か紙を差し出し、それを女性が受け取る。
「え、百合様の事務所の社長!?」
「実は、薫さんのことで内密にお話がありまして……――」
「わ、判りました、とりあえず中へどうぞ」
女性は中へ皆を中へ招くと、あまり何も言わない私を不思議だと思ったのか、じろじろと見つめていた。
奥から男性もやってきて、不機嫌そうであった。
「薫! 何だこんな夜遅くに帰ってきて、男連れとは!」
「あなた、何だか事情がありそうよ。薫ってば大人しいの。いつも騒がしいあの子が!」
「――実は……」
写楽が話を話し始めると、男性は不機嫌を収め、困り果てた顔をした。
「そうですか、記憶喪失……そうとは知らず、面倒を見てくださったのに失礼なことをして、すみませんでした」
「いえ。それでですね、薫さんをうちで――」
「それはそれ、これはこれ。事務所がどうして、うちの薫の記憶を取り戻すのに必死なのでしょうな? 見たところ、薫を特別扱いしてるように見えますが――」
男性の鋭い指摘にたじろぎかける写楽。
百合がすっと挙手をして、先ほどまでなりを顰めていた外見からの神々しさを惜しみなく表に出す。
「あの……実は、ですね。薫さんと、内密に俺はお付き合いしてるんですよ……――」
『え』
「どうしても、薫さんの記憶を取り戻したいんす……俺は、あの、熱烈に愛を囁いてくれた薫さんを、取り戻したいんです…………」
「百合?」
「ねェ、薫――……どうして、どうして俺のこと忘れたの……俺じゃ、不満?」
艶っぽい表情に、ぞくぞくと背筋にくる声は、なんとも言葉にしづらいもので。
言葉を失っていると……。
話合っていた、男性――父親という人が、泡を吹いて気絶していた。
「あ、あなたーーーーー!!!」