秘密の作戦
「薫、もう一度あの生徒手帳見せて貰っていいか?」
「せいと?てちょう?」
「貴様と出会ったときに見せて貰った、あの手帳だ」
「あ、うん……でも写楽、どうして?」
「貴様の〝親〟である方々に直接会って、まずは貴様が記憶喪失であると話す。
そこで、――そうだな。貴様はうちのカイシャでデビューする契約を密かにしていた。
だから記憶を取り戻して是非デビューしてほしい、と説得して、うちに来て、あとはこの世界の勉強をする。どうだ?」
「なる程、今の私はこの世界の文字も常識も知らないから、おかしいもんね。
有難う、写楽」
「礼を言われるようなことではない。ただ……その、……何でも無い」
「写楽は心配ですのよ、ねー?」
「黙れ百合」
写楽はむすっとしてから、私の鞄を漁り、また生徒手帳というのを見つけるとそこへ連絡する。
連絡した後に、魔物の皆と最後に「また会おうね」とお別れして、パーティーは終わった。
写楽と一緒に百合も馬車に乗り、手帳に書いてあった私の住まいに向かっている。
私の住まいに辿り着くと、写楽は私の顔をじっと見つめ、考え込む。
「……余計なことを言いそうだな、貴様は」
「そう? 私は割と何も言わないよ」
「何も言わないのが問題だ。感情ですら貴様は口にしない」
「それってそんなに変かな」
「この世界では、その年頃では不自然すぎる生き方だ。この中で待ってろ」
「ううん、私も行くよ。自分の親を一度くらいは見ておかないと不自然だよ、それこそ」
「それならあたくしも行きますわ! 皆で行きましょう!」
「……――好きにしろ、二人とも」