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騎士道と、コウモリ精神

 いつの間にか、北斎のアトリエが、いつもの顔なじみがくるたまり場となっていた。

 何かあれば此処に誰かがいるんじゃないかという期待を、皆は持っている。

 何となしに空いた時間に、心休めたく脚を運んだ場所にて、出会うのに「当然」たる人物と出会っただけ。

 北斎のバイヤーである、甫坂と。


「やだなぁ、そんなに睨まなくても宜しいじゃあありませんか」

「……魔女、いや、甫坂。お前には、伝えたい言葉や、恨み言は山ほどあるんだ。沢山。それこそ、薫を拝めなくさせるために両目を潰してやりたいくらいの、勢い程はある。それらを全て抑えて、聞こう」

「……この前の、薫さんへの宣戦布告のことですか」

「貴様はどういうつもりだ、ふったのに、今更惜しくなったのか?」

「はい、最低でしょう?」

「その割には清々しいほど開き直ってるな?」

「――いいえ、これでも、相当悩みましたよ。今も、胸が、痛みに震えるくらいには」

「……いっそ、射貫かれろ」

「はは、手厳しいのにお優しいこと」

「――どうしてだ?」

「近づくな、とは言わないのですね、過激派の貴方のことだから、きっと近づくなと言うと思ってました」

「認めたくはないが――あの時、薫の顔が物語っていた。恋をしているのだと。勘違いするなよ、今は貴様だと100%は言えん。だが……可能性が残っているのは、事実だ」

「……そこで、潰したり、拒否させようと企てないあたり、心配になります。もし自分が、写楽さんの立場だったら、きっと僕はこんな言葉をあの方に言うだろう。あいつは薫さんを弄んでいるから近づかない方が良い、と」


 写楽はブラックコーヒーに、砂糖だけを入れて、スプーンでくるくる混ぜながら笑った。

 普段は砂糖をいれはしないのに、大層この男に疲れているのだと自覚して。

 遊んでいたり、弄んでいるほうが幾らか気が楽だった。

 絶対的な悪人であれば、退けるのにココロは傷つきはしない。あいつは悪い奴だと、言い切れる。

 だが、――相手は写楽が恋する人の気持ちを、大きく左右する魔女だ。

 遠い昔、二人がよく一緒にいた姿を思い出しながら、コーヒーを飲む。


「昔、此方にくるまえのことだ。お前と魔王様が笑っていらっしゃった――大層、そこの空気だけ華やかでありながら、穏やかで優しい時間を過ごしているのだな、と思った。その時は、貴様含めて、魔王様の幸せを守ってやりたいと、その時は思った。だから、これで一回だけは許してやる。あの方を揺るがしたのは、最初は間違いなく貴様だからだ。そこから先は、容赦しない。あの力も無い〝女〟を欲しがっているのは、貴様だけではないのだよ」

「そんな言葉吐きながら、貴方は理由ができると容赦沢山してくれそうですね」

「舐めてるのか」

「いえ、お優しいことに感謝は致しておりますよ、貴方の甘さは置いといてね。それで、此処にどうして貴方はいるんですか。僕は癒やしを求めて、ですけれど。貴方は違いそうだ。僕に宣戦布告しにくるためだけとは思えない程に、貴方は多忙だ」

「いいや、大事な用事だ。大事な人が傷つけられる予防線を張る為に、時間を割くのはおかしなことか?」

「ふむ――意地悪なことを、一つ申しても宜しくて?」


 写楽が片眉をつり上げたのを合図に、甫坂は真顔でじっと写楽の表情を見つめる。

 寸分の表情の変化すら逃がさないように。


「貴方の好意は、本当に恋ですか? 魔王様への憧憬ではなくて?」






 写楽は万全な体勢でライバルを倒したい姿勢を持つ、騎士道精神の男だとすると。

 甫坂はあらゆる手を使い、姑息な手を使ってでもライバルを蹴落としてから、高みの見物をしたがるコウモリである。


 許された身であると理解した瞬間、「相変わらず優しいな」と感謝はした。

 魔女にとって、薫が心許した仲間と仲良く出来ない光景は、薫の好まぬ光景であり、許しがたい行いになり自責の念が高まるだろうから。

 だが、恋心を自覚したならば、話は色んな箇所で別の話になる。

 ライバルと快く笑い合い、肩を並べることなどできない。


 たった一つの座席を、どうして笑い合いながら狙えるのだろう。

 甫坂は疑問点を、素直に口にすることで、混乱を投じた。


 写楽にとって、その恋路は本物であるのか、と疑問を植え付けることで、少しばかりは薫から身を引く思案をする時間くらいは稼げるかもしれない。

 その間に、恋人という座席に座れば良い――あわよくばその先も。


 甫坂はにっこり笑いかけ写楽の表情を見つめて、一つ写楽について判った。


「――貴様がくだらない話をする程度に、本気なのは判った」


 ――ああ、写楽は魔女という生き物をよく判っている。

 写楽は、蹴落とされまいという姿勢ではなく、蹴落としてこようとする甫坂に対して、威嚇しないよう鼻で嗤ったのだ。


(きっと、一番手強いのは、この人)

(席を狙うからには誰も軽んじてはいけないけれど、最も注意すべきは、この目の前にいる、冷たい眼をした吸血鬼だ――先生や、百合さんだったら、落ち込むべき言葉を与えたのに動じない)


 甫坂は考え込み、思案し終わると、写楽へ酷薄な笑みを浮かべる。


「我が神の番になるためには、偉くも卑しくもなりますよ、身辺お気を付けてお仕事にお戻りください♪」

「理解できん男だな」


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