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傍観者でいられない


 甫坂は帰路につくなり、冷静さを取り戻す為、シャワーを浴びる。

 シャワーを浴びても浴びても、過ぎるのは薫のことだけ――。


 写楽にキスをされたときの顔を忘れられない――あんな、あんな顔を見て良いのは、自分だけだと悔しがる。

 見守るつもりであった、当初は。

 見守って、笑いかけて「若いですねーお似合いですね、お幸せに!」と、からかうつもりだった。


 思考回路と行動は真逆だった――笑えなかった。


 薫の真っ赤な表情を見た瞬間に、どす黒い感情が過ぎる――あの方は私の物だ! と叫んで、閉じ込めておきたくなる衝動。


 本当に、神だというのなら他者へ愛を持とうと、慈愛に満ちてらっしゃると、嬉しくなるのだろう――だからつまり、薫は自分には、ただの女と化したのだ。

 それも、欲しい人だと。


「あんなに泣かせたのに……何を、今更」


 それでも。

 唇の感触は、仄かに。


 シャワーから出て、髪の毛をドライヤーで渇かす気力も沸いてこない。

 己の髪の毛を抓み、見つめる。


「私は魔女、ただの、魔女――化け物……だ」

 最初から魔物として生を得ていたのならこの感情も違っていたのだろうか。

 人間として産まれ、人間に疎まれ、化け物となった身だった前世だ。


(化け物が、神に近寄り寵愛を強請るなど、烏滸がましい――!)


 顔を顰め思案し、――深く息を吸い込む。


「もう、ただの、魔女ではいられない。化け物だ、なんて劣等感まで何処かいってしまいそうなのか。私は、甫坂久哉として愛されたいのか」


 薫をふったときの顔を思い出す、切ない笑みだった。

 ふっても引き留めないで、くれていた。

 最初に伸ばされた手を振りほどいたのは、己だというのに――。


「薫は、今頃、どちらのことを考えているのでしょうね」


 願わくば、己でありますように。

 最低な、願いであれど、願わずにいられない想いだった。




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