煮えていく感情
私は帰るなり、自室に鍵をかけて、ベッドに横になる。
枕をぎゅっと抱えて、赤くなる顔を押さえようと堪える。
頭の中に浮かぶ人物は、いったいどちらなのかが判るけども、判りたくない。
私は、写楽も甫坂さんも、どちらも気にしてしまっている!!!
「ほ、甫坂さんも甫坂さんよ、なんでふったのに?!!」
私は抱えていた枕をぼふぼふと叩いてから、顔を両手で抑える。
赤くなるのは悔しい、悔しいから落ち着こう、落ち着くのよ私!
「写楽も馬鹿よ、なんでいきなりキスするのよ!!」
両手でベッドをばしばし叩く。ぼふぼふと手触りのイイ布団が、気持ち良いけど、今は落ち着かない。
何よ、何なのよ!
「薫、薫!?」
どんどんと扉のノック音が聞こえる。
扉を開ければ、百合がいて。私の顔を見るなり、目を細める。
「何かあったのかしら」
「百合……写楽と、甫坂さんが……う、う……」
「……薫の顔を見れば、もう一目瞭然ね。気にしてるのが。悔しいから、あたしも混ぜて頂戴?」
――百合が、今度は、キスをしようとして、やめてくれた。
顔が間近にあり、ぎりぎりでじっと百合は瞳を見つめている。
「本当はしたいけれど、貴方怯えているから、意識させることだけでも、許して頂戴な?」
「ゆ、百合……!」
「あたし、これでも紳士に目覚めつつあるのよ、だから、ここから先は薫が振り向いてくれたときに。相談したいなら、勇者の仲間の……美鶴でしたっけ? あの子に相談するといいですわ、あの子はきっと薫のことをそういう目で見ていないから」
「み、皆、皆してもう!!!!! 私をからかって!!」
「薫――ひとつ誤解してるわ、皆は貴方に本気だからこそ、唇が欲しかったのよ」
百合は真剣な表情を見せると、私の顎を捉え、じっとまっすぐに見つめてから睨む。
「もう貴方に呪いはかかっていない、真剣に考えるチャンスが今日なら、それは受け止めて。今日少しでもいいから、あたし達の想いを考えてくださると嬉しいですわ。少なくとも、ふざけてる、なんて考えたらいけませんわ」
「百合……だって、だって……頭が混乱しそうなの、爆発しそうなの。どうして? どうして私なの? 私が、何かをした覚えって、ないの。私が皆を、心惹かせる行為をした覚えが、ないの!」
「――薫は、悲しい? 今の状況。何か理由が欲しいのかしら」
「悲しいとか悲しくないとか、判らないの! 感情が、判らなくて、爆発しそうなの……」
「それってね、きっと、恋を意識してる瞬間。あたし達の誰かなのか、全員なのかは、あたし達次第ってところかしら。でも、きっと、最後に一人だけ意識することになるわ。だから、その爆発した感情は、〝唯一〟ができたときに甘えなさいな。大丈夫よ、今回は前みたいに誰も追い出したりしないと思いますわ」
にっこり笑って、私を安心させようとする百合の声ですら、私には爆発しそうな感情に負かされそうだった。




