北斎の登場
着いた場所は、赤いカーペットに、金色の屏風や垂れ幕や、美味しそうだけれど見たこともない料理ばかりが飾られている。
物珍しさに、集まった元魔物達が驚いたり、一心不乱に食べたりしている。
でも、写楽と百合に挟まれてる私を見つけると、期待に満ちた瞳になり、皆きらきらとしていた。
「魔王様! 魔王様ですよね!?」
「ご無事で何より! と、倒されたのでしたら、ご無事ではないですなぁ!」
「魔王様とまた逢えて嬉しいです!!」
「有難う、私も皆と会えてとても嬉しいよ――皆、見た目が人間になったけどね」
この世界には向こうみたいな見かけの生き物はいないようだったので、少し寂しい。
一瞬しゅんとしたら、皆が目を潤ませて、歯を食いしばる。
「我々にッ、もっと力があれば、魔王様にそのような顔をさせることもなかったでしょうに……すみません!!!」
「もっと炎の魔法の練習しておけばよかった……!」
「皆、落ち着いて、せ、折角人間になったんだし、今の生き方も楽しもうよ。もう倒されないよ。そうでしょう、写楽、百合?」
皆が悔しがるのを励ますのを手伝って欲しいと思って二人を見やると、二人は私から顔を反らした。
「え? ど、どうしたの? 二人とも」
「べーつーに! ただ、男女になるととーっても心に厄介なものができますこと、と思いまして」
「……――倒されるかどうかは判らんが、危険はこの世界にもあるようだ。だから保証はできんな」
写楽の言葉は分かるけれど、百合の言葉は意味が分からない。
男女になると何が厄介なのかな。
「北斎が着いたようだ」
写楽は元魔物の一人から耳打ちされると、私へ教えてくれた。
会場へやってきたのは、一人の黒髪眼鏡の男性と、もう一人は――金髪の少年。
私と年が近そうだった。
少年は私と目が遭うと、ゆるりと笑いかけてくれた。
子供とは思えない、色香だったので、少しぼんやりとしてしまう。
「薫、いらっしゃい――ようこそ、此方へ」