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たった一つの意地悪

 写楽の眼差しに、私は騙すのだと胸が痛くなったけれど、写楽の要望に応えて、案内する。


 案内した先にある絵は、とても大きな絵。額縁もないほどの。

 魔物の苦悶と、人間の苦悩を現す一面もあれば、両種族の喜びを分かち合う和んだシーンもある絵であった。

 色使いは優しく、堺由樹の画風である、幻想的で柔らかなタッチであった。

 堺さんの約束通り、クオリティは保証されたみたい。


 写楽は一瞬目を細めてから、泣きそうな表情で、絵の輪郭をなぞるように、――空を搔いて、手を下ろす。

 俯き、しばらく黙っていたかと思えば、私に振り返る。


「――こんな、未来も、あるのだな。ならば、オレはもう二度と心配しなくてもいいだろう。心配するだけ無駄だ。……薫、外に出て話を聞いてくれないか」

「二人で?」

「ああ、二人で、だ。甫坂、後でお前と堺由樹には、北斎の相談に乗って貰う」

「判りました、それでは後で」



 私と写楽は、個展の外にある庭を、少しだけ散策していた。

 可愛らしい花や、綺麗な形に切られた葉が、変な造形をして植樹として植えられている。


「薫、まず、一つ目――……貴様、堺由樹に指示したであろう?」

「――さぁ、どうかしら」

「おや、指示をしたのであれば礼にケーキの一つでも馳走してやろうかと思ったのだが、いらんようだな」

「……怒ってないの?」

「オレは、はっとしたよ、あの絵を見て。きっと、オレは、納得のいく未来の片鱗を、一つでもイイから見たかったのだと。それがたとえまやかしや、嘘だとしてでもいい。それでも、それを『真実』だと言ってくれる奴に、描いて欲しかったんだ」


 写楽は仄かに明るい笑みを浮かべ、子供のようにあどけなさを見せた。

 私は、少し何かがとくり、と動くのを感じたが、気にしないことにした。


「薫、二つ目だ――どうして、そこまで、オレに必死になってくれた?」

「元部下の為よ」

「……――そう、そうか。今はそれが答えか。オレは、少しは特別扱いを受けた気持ちになったから、嬉しくはなったのだが薫の中ではまだ優先が低い位置にいるのならば、この質問はなしだ」


 私は瞬いてから、それなら、と個展の中に戻ろうとした。

 その瞬間――手首を掴まれ、振り向かされて。


「――!? あ……」

「質問はなしだが、オレだけでは不平等だからな。……一つ意地悪させてもらうぞ」


 写楽は私の唇にキスを、触れるだけの優しいキスをした――。



 混乱する私を、見つめる眼差しが遠くにあった――甫坂さん。



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