配下の悔しさ
「最初は、憤りであったよ、この絵を見たときは。
薫を殺した世界が、薫という魔王を失ってから、また魔王を手にするのか、と」
「私もその点は、同感です」
「徐々に絵の先が知りたくなった――堺由樹に会った、北斎の兄か、と笑われた。
嫌な笑い方ではなかった、ただ、絵の未来を聞けば続きを描くと約束してくれた」
「――写楽さん、あの絵は続きを描いてはいけないし、あの人の画風ではない。
あれにはきっと裏があるんです、何より、もう戻れない世界を気にしてはいけません。
我々が気にしたり、絵を催促すれば……魔王様が苦しむことになる未来しか、私には見えません」
「……薫をココに連れてきたときも言われたよ、予知だとしたらどうしたいのか、と」
写楽は缶コーヒーを一気に煽り、飲み干すと、顔を顰める。
「……おかしいのか、そんなに。そんなに、向こうへ拘るのは駄目なのか。
……オレは、悔しいんだ。どうして薫と向こうで、平和に暮らせなかったのかと。
どうして、どうしてオレ達が倒されて当たり前のような世界であったのか、謎を知りたかった」
「謎を知ってどうしたかったんですか」
「……どうしたいも、何もない。ただ、ただ知りたかった。オレ達の死は、あの世界で祝福されるべきものだと信じたくなかった。信じてしまえば、この世界ももしかしたらそうではないのかと、怯えた」
「案外臆病な吸血鬼ですね。終わったことは終わったことだと、受け入れてしまえば楽になれますのに。
過去を気にして、今を苦しめて、大事な人の現在まで苦しめてどうするんですか」
「魔女、貴様は気にならないのか。自分が死んだ理由や、貴様が鍵であった理由は」
「――気になったのを、解してくれた方は、魔王様でした。魔王様が笑顔でいてくれること、それこそがきっと私が鍵である必要性。
あの方を取り巻く環境が幸せであるように、今度こそ幸せを逃さないように、と。あの方を見ていて思いました」
「幸せになろうとした瞬間貴様は突き放したではないか」
「――私は、あの方が傍にいればいるほど、手ひどく閉じ込めてしまいたくなりますので。
私にしか、頼れなくなるように、なってしまえ、という心と闘うのって大変ですよ?」
甫坂は缶コーヒーをちびちびと飲み終わると、ゴミ箱に空き缶をそっと入れて、写楽へ笑いかける。
「もしも貴方がまた苦悩したときは、私の神の力を借りましょう。
私には神であるように、貴方にはきっと今も魔王なんです。
貴方も私も、あの方が人間になっているということを、少しでも認めないといけないと思うのです。それには、あの絵画は邪魔です」
「邪魔、だというのか。元の世界を」
「だって、あの世界に私達はもう行けませんから。さて、それにしても堺先生は何を考えてらっしゃるのやら……堺先生に何かおかしなことがあったら、連絡してください。勿論、薫さんには内密に」
「――判った、あの絵の理由は、オレも知りたい。問い詰めてみるか」
「問い詰めても素直に答える方ではないと思いますけどね」




