魔女と写楽
「どうにも苦手ですね、機械は……」
スマホのライトがちかちかと光っている。
ライトは、うっすらと絵画を照らしていた。
「堺由樹、ですか……ははあ、あの人はどうして……問題を起こしやすいのか」
巨大な斧を持った甫坂は、まじまじと夜中の個展に侵入していた。
機械が苦手だと言いながらも、監視カメラや厳重な警戒を解いて入ったようだ。
「……――この絵が、きっと魔王様のキーとなる」
甫坂は、絵の中に描かれている勇者をなぞろうとしながらも、なぞらないぎりぎりのラインで指を留める。
指を留めながらも、妖しく動かし、口元に指を置きうっすらと微笑み。
微笑みの種類は、薄ら笑い――馬鹿にする笑みである。
「あの方は何も気に掛ける必要は無い、私が全て消して差し上げます。魔王様の悩みは、全て私の邪魔者ですから」
ふと見せた独占欲に気付くと、甫坂は微苦笑を浮かべ、首を振る。
「……自分から手放したというのに、未練がましい。それよりも、だ。堺先生は何を考えてらっしゃるやら……この絵は……」
甫坂は、この世界で磨いた観察眼を光らせる。
「この絵は堺由樹の画風ではないのに、何故堺由樹の絵として名乗った?」
「流石、勘が良すぎる」
「誰ですか?!」
甫坂が声のした方角へ斧を向けようとしたが、身が動かない。
金縛りのように、動かない。
「ココへ来られては困るんだが」
「写楽様、貴方――どうして」
「どうしてって、この絵はオレのだからだが」
「この絵を買い取る?悪趣味ですね」
「オレは堺由樹の動向を知りたい。というより、向こうの未来が気になる、それだけだ。薫を失ったあの世界が、一体何をどうしたら、満たされるのか。薫では駄目だったのか、などな。魔女、少し話そう。缶コーヒーくらいは奢ってやる」
言葉は、暗に「見逃してやるから愚痴を聞け」というものであった。
甫坂は頷き、共にロビーにある自販機へ行き、珈琲をご馳走になる。
写楽編開始




