何もかも受け入れていいよ
「私、北斎を迎えに行ってくる」
「それなら車はオレが出そう。先に恋が進展されても、気になるものだしな」
写楽は冗談なのか本気なのか判らない言葉を放ちながら笑い、私と一緒に詐欺師たちがいる焼肉屋に連れて行ってくれた。
焼肉屋の駐車場から伺うと、店を出て行こうとする北斎達がちょうどいた。
私は車から降りて、北斎のところへ向かう。
「北斎、良かった、心配したんだよ」
「薫……心配かけたのなら、すまない」
「北斎、美鶴のことは私は良い人だと思うし、北斎とできれば仲良くなって欲しかったけれど、北斎が嫌なら友達にならなくてもいいんだよ」
「……薫」
「友達の友達だからって、無理矢理友達になるの変だもの。美鶴には私から言うから」
「――違う、んだ、薫。僕は、何を考えているのが判らないことが、怖かったんだ、あいつ。前世で、知らない奴だったから」
「怖い想いを殺さなくてもいいのよ、人と触れ合いは怖いって感じるのを否定しなくてもいい。でも、時折でいいから、ふと思い出して。この世界って、きっと悪い人ばかりじゃないと思うの」
「……――薫。少しの間、手を握って散歩してくれないか」
微苦笑を浮かべた北斎が私に問いかけたので、詐欺師の人達に写楽へ伝言を頼んで、二人きりで散歩をし始める。
手を握っているけども、北斎の手は冷たく震えていた。
「いつまでも、このままでいいとは思っていないんだ。全部を否定して、全部拒絶する。それって、出会いを全部殺している。出会いの数は、作品にも影響すると思うからな」
「作品にも……北斎の作品は綺麗だけど、なんていうか……一人きりの世界みたいに感じていたの。湖の湖畔で表面に誰も入れないよう凍らせて、凍っている水中で活き活きとしている感じ。北斎は美鶴に興味はあるの?」
「悪い奴の匂いは、しない」
「――なら、美鶴にその凍った表面を割って貰えるのを期待してもいいと思うの。美鶴じゃなくても、友達になりたいって思う人がいるのなら、その人に」
「うん……そうだな」
「北斎、何でも信じていいよ。何でも受け入れていいよ。貴方のいいところってそれだから。だから、騙されたり、傷つけられたら私がフォローする。それまでは、何でも信じて、素直に笑ってこの世界で幸せになって」
「……――薫」
北斎は何かを考えているみたいだった。
「薫、僕はお前に感謝している」
「どうして」
「……僕は、きっと、お前がいなかったら前世に拘ったままだった。魔物という括りだけで、動いていたかもしれない。前世に関わりがあるとはいえ、初めて魔物以外に興味を持っているんだ。僕自身に、こんな関心があったのが驚く。それから、面白いんだ」
「面白い?」
「そいつに薫の話を――内緒でこっそりできる、楽しみが、な」
秘密話のように北斎は、私に教えてくれてから頬にキスをして、笑う。
子供のように無邪気な北斎の繊細な心。
繊細だからこそ、これからも人に戸惑うかもしれない。
誰かに裏切られて悲しみ惑うかもしれない。けど、そうしたとき、傍にいられたらいいなって思うの。
傍にもう一人。もう一人いてほしい。それが美鶴だったら、もっと安心できる。




