奇妙な絆と、北斎の過去
『写楽:誰か北斎に何があったか知らないか?』
『百合:北斎なら薫達と一緒にいなかったかしら』
「……うん、いたんだよ。いたんだけど、私が北斎に無関心すぎて、傷つけちゃったんだ……」
かさりと、過去の新聞紙を見つめる。
北斎が帰ってこないアトリエで、私は過去の新聞記事を読んでいた。
全部北斎が集めたのかと思うと、胸が痛む。
『五十嵐北斎、大賞取り消し』
『〝大賞は、芸術を壊す奴には相応しくない〟――堺由樹』
『破門されるのも時間の問題!? 五十嵐北斎の大賞取り消しの理由』
堺由樹――聞いた覚えのある名前。
写楽に見せて貰った絵の画家さんだ。写楽だけに個別で、連絡を取る。
『薫:過去の北斎と、堺さんについて聞きたいの』
『写楽:北斎はそれなら、美鶴を〝芸術家〟とみなしたわけか。判った、そちらに向かう』
写楽が一時間ほどでやってきた。
少しスーツがくたびれている、それだけ慌ててやってきたようだった。
「北斎の奴から、暫く五十嵐家に泊まると連絡があってな。あいつからそんな連絡がくるのは久しぶりだ」
「……堺さんと何があったの、北斎は」
「堺と北斎は、師弟関係だ。――酷い事件があったんだ。堺の元に弟子入りしていた前世の記憶を取り戻してない頃の北斎は、やたらと敵が多かった。今は孤立することが多いようだがな。兎に角、――発想が奇抜すぎて、堺に気に入られすぎ、他の弟子から疎まれていた」
写楽はスマホを弄って、北斎からの連絡を眺めてから、スマホに写る写真を見せる。
そこには、北斎のものだと一目で分かる作品。
「これは歴代一最高であった北斎の作品」
「すごく綺麗だね、氷と白鳥と風車を現しているのかな……幻想的」
「そう、誰にも真似できない作品だった。……北斎の作品を見た奴が真似して作り、そいつが時期を合わせて大きなコンテストに提出した。……大きな問題にはならなかったが、真似されて漂う空気は判るだろう。北斎はプライドが折れて、その場で自分の作品を壊した。堺はそれが気にくわないらしく、北斎は破門されかけていた」
「……何よそれ、酷い……!」
北斎が作品をどれだけ大事にしているかは、普段を見ていれば判る。
それだけに、自ら壊そうとしたあたりに、北斎の悲しみを感じた。
「しかも、真似した奴は当時の北斎の親友だ――……さて、その破門されかけてぼろぼろだったところで、北斎の魂はハーヴィー……前世の記憶を取り戻した。薫、貴様のことも思い出した」
写楽は、もう一枚スマホに写る写真をスライドして変えて、見せてくれた。
そこには、歪ながらも不細工ながらも、きちんと龍の彫刻が写っていた。
龍の彫刻には勢いがある水流や、コウモリ、王冠が傍に刻まれていた。
それぞれがばらばらなのに、一つに纏まっていて奇抜なセンスを感じながらも、美しいと言える作品。
「あいつにとっての復帰できた頃の作品――どれだけ、前世が大事だったかが判る作品だ」
「……ねぇ、待って。この彫刻、値段が書いてある。……二百万!?」
「そう、二百万。その値段をつけたのは、あの詐欺師三人衆だよ。最初のバイヤーがあいつらだ。……あいつらはただ、最初は北斎の作品をゴミとして見て、他の馬鹿な奴に売りつけるつもりだったんだよ。だけど、これが傑作でな……二百万でも安いと言われる価値がついた。あの三人は、北斎にとってプライドを取り戻したんだ、本心から欺しながらもな」
写楽は、連絡先にある三人窓を見せる。
「オレは詐欺の奴らを美化するつもりはない、だが救いであったのは事実である――こいつらが理由が金であれどうであれ、北斎が大事なのかもな」
「……北斎! よかった……!」
三人窓では、焼肉を大いに食べる北斎と詐欺師三人衆のうち二人の写真が写っていた。
一見みると落ち込んだ友達を励ましているみたいだね。ついさっき撮ったやつのようだ。
「オレはこういう形の縁もあるのだな、と呆れたよ」
言いつつも、写楽はようやくほっとした表情でソファーに座り、伸びをした。
「薫、いつか堺由樹に会ってみないか?」
「……うん、私、会ってみたい。北斎のこと、お願いしますって言いたい」
「……――宜しい。流石、薫だ――嬉しい返答をくれる」




