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秘密のシッター


 美鶴が遅れてベランダに入ってくる。

 ベランダに入ってくるなり、美鶴はマーライオン驚いてから、北斎に笑いかけた。


 その笑みは、普通の笑みだというのに、北斎は若干怯えたように見えた。


「やぁやぁこんにちわ! 龍の人だね! 僕は勇者のパーティーの一員だったやつだよ! 桐田美鶴というらしい、この世界では」


「そう、か。薫、薫」


 ぎこちない動きで、北斎は私に耳打ちする。


「どういうことだ、勇者の一員なら僕らには悪人なのだろう? 悪者っぽくないぞ。良い奴だと困るんだ」


「どうして困るの」


「……――それ、は」


「どうしたのさ、二人で内緒話して? さぁさぁ、芸術品を見せてくれよ! 僕に全部見せて、君の全て!」


「得体が掴めない奴だな、いいだろう、紹介するか。僕の作品。薫、この話は内緒、だ。また写楽が心配する、あいつはこの世界では兄だ」


「う、ん――?」


 北斎はあっさりと美鶴を部屋の中にいれて、作品や自分の集めた資料を紹介し、意見を交換して話を盛り上げていく。

 いや、盛り上がっているのは、美鶴だけで、北斎は徐々に盛り上がりが欠けてくる。

 美鶴のテンションの上がり具合が半端じゃないから、それで負けるっていうのなら判るのだけれど、何となく違和感を感じた。




「紅茶、飲みますか?」


「あ、うん――甫坂さん、北斎はどうしてココで作品を作っているの?」


「――……どういった質問でしょうか、それは」


「だって、よく考えたら北斎が今の年齢から、個人のアトリエを持っているのは不思議な気がして。

……それを、甫坂さんが売っている、というのも」


「私がお答えできるのは、私が関わってる部分だけですよ。

私が先生の作品を売っているのは、先生のお師さんにあたる方からのお願いです。

いや、その、薫さんを見守るのに丁度いい位置だったのもありますが」


「どういうお願いをされたの?」


「……先生が、二十歳までに金の使い方を教えてやって欲しい、と。

先生が前世の記憶を取り戻す前からお金に疎い方だったらしく。

今は、ああやってすぐ詐欺師の方に懐いて、お金を浪費してしまうでしょう?

 ですから、これは秘密裏のシッターなんです」


 甫坂さんが紅茶のおまじないをしながら、紅茶を私に淹れ、そっとテーブルに置いてくれた。


「先生は、はっきり言うと芸術の感性以外、人間として成り立っていないんです――何処かあの方はずれてる」


「でも、でもね。最初に皆を気遣って、私に甫坂さんのこと考える機会や、

想いに気付く切っ掛けをくれたのは北斎だよ」


「先生が薫さんを慕っているのはご存じなんですよね?

 ――だとしたら、不自然ではないですか。

本当に卑怯な人間なら、気付かないフリをさせることも可能でした。

というより、一般人ならそうします」


 そういう、もの、なのかな――甫坂さんの話が極端、とかじゃないのかな。

 と問いかけようとしたら、じっと甫坂さんの冷たい目が降りてくる。




「薫さん、男というのは貴方が思っている以上に、野蛮ですからね。知っておいてください」


「な、なんでそんなこと言うの」


「――別に。なんで、でしょうね。変に苛立ちます、きっと気圧の所為ですね」


 つい、と甫坂さんが視線を外し、はしゃぐ美鶴たちの元へ行き、紅茶やお菓子を持って行く。

 何で、だろう。


 そういえば、男性はこうだから、とか、女性はこうだから、とか本格的に意識したことが、なかった気がする――。

 皆にとって一番の仲良しになることが、どういう待遇になるか、とかは理解したつもりなのだけれど。


 無性だったのを引きずっているのかな。



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