知らないふりを。
皆が食事を終えて、写楽はテレビを。北斎は小説をリビングで読んで、リラックスしていた。
私と百合はお皿を洗っていて、百合は嬉しげににこにことしていた。
「どうしたの?」
「とっても幸せ。倒されたけど、こっちの世界で薫の手料理が食べられて、とても幸せ! って実感してましたの」
「向こうじゃ蜂蜜スープが唯一の食事だったからね……」
「ねぇ、薫。ちょっと一緒にお忍びでデートしません?」
「百合?」
「あら、この家に皆の気持ちを知りながら戻ったってことは、少しは受け入れて貰えるかと思ったのだけれど――」
「ううん、あのね。これはね、情けない話なんだけれど、聞いてくれるかな」
私は洗い終わったお皿を拭きながら、百合へ視線をちろっと向けた。
百合は真っ直ぐに私を見ていて、真剣だった。
「皆の気持ちを前提に知りながら、皆の気持ちを無碍にするって難しいんだよ。だから、魔女にも相談したの」
「あの方のことですから、記憶を消せって言われた?」
「――今回は記憶を消すべきじゃないって、魔女は言っていたよ。ただ、それでも案は教えてくれた。誰かが特別になるまでは、気付かないふりしろって」
「それは大胆ね」
「誰かが特別になる日がきたら、嫌でも意識するから、それまでは慣れなさいってニコニコして言ってたよ。だからね、百合。私としては、デートってことなら断らなきゃいけない。ただの買い物とか、お出かけとかなら、受け入れるよ」
「――とても狡いのね、まぁいいわ。それなら、俺と出かけてくれないかな、薫」
「断る理由はなくなったから、いいよ」
「写楽、止めなくていいのか、あれ」
「誰かへの感情に差異がでる切っ掛けになるのなら、構わん」
「ふぅん、僕はとても嫌だけどな。僕の薫を独り占めされる」
「嫌ならば貴様も誘えばどうだ」
「ああ、その手があったか! 薫、薫、僕もお出かけしたいよ、お前と二人で!」




