年始に着物
お正月には、お節というものが必要だと、北斎は嬉々として前に語っていたのを思い出す。
だけど、我が家はお節というものには拘りがないらしく、兎に角、蟹。
蟹を沢山注文していた。正月は蟹となますと、数の子と刺身で迎えるのが、うち流の正月らしい。
あとはきんぴらゴボウ、かな。
私も随分と色んな種類の食べ物や、文化を覚えてきて、馴染みつつあるのかな、と思ったら、まだ馴染んでいない文化があった。
それは……。
お正月に着る着物というもの。
「ねぇ、どうしてこれを着なければならないの、お母さん」
「だって、皆さんのところに挨拶にいくんでしょう? 百合様に会いに行くのなら、オシャレしなきゃ!」
「そ、そうなの……?」
ピンクの着物という形をした衣服は、とても身動きが辛かった。
お腹が苦しいし、胸が潰れるし。
いつもなら気軽に皆のところへ歩いていけるのに、苦しくて無理なので、普段出来ないおねだりをさせてもらったところ、すぐさま写楽が車で迎えに来た。
うちのお母さんと挨拶を済ませると、私を車に丁寧にエスコートして乗せてから、くすくすと笑った。
「魔王がおめかしをする時代か、悪くない」
「う、五月蠅いわね、逆らえなかったのよ。
不思議よね、お母さんって存在。
前に写楽が親というものに喜んでいた気持ちが、少し分かったような気がしたわ」
何だか気恥ずかしくて、何だかほんのり暖かくなる気持ちを貰うから、逆らえない。
頭を一つ撫でて貰うと、もうぎゅっとしたくなる。
「似合ってるじゃないか、いつもと違う見目だと確かに新鮮だ」
車の運転をドライバーに任せて、写楽は私の髪飾りに触れる。
「動くなよ、少しずれているから直してやる」
「前に写楽、男なんだぞ自分だってって怒ってたけど、その言葉を今思い出させるべき?」
「おや? 意識して頂けるのかな」
写楽はにやにやと憎たらしい笑みを浮かべて、手の甲にキスをすると、私の頬がぼっと赤くなったのを感じたので、手を振り払う。
前の世界でもされていたはずなのに、前の世界と意味が違う……!
「ついたぞ、薫。皆に年始の挨拶だ」
ついたのは、この世界にきたときと同じ場所で、パーティーをしようというわけ。
年始のパーティー。仕事詰めの百合や、職場の魔物達への配慮だというのが、写楽らしいよね。




