久しぶりの笑顔
〝――百合がもうすぐアトリエに着きそうだ〟
北斎からのメール。北斎は今、玄関先にいる。
寒いのにわざわざ見張り役を申し出てくれた北斎に感謝しなきゃ。
あとでうんと美味しいオレンジジュースを絞ろう、それから、美味しいお菓子も。
〝写楽と百合の足止め、お願いね〟
私は換気を済ませると、家の中に飾り付けをし、皆に用意していたアルバムを取り出す。
――頑張って撮ったアルバム、喜んでくれたらいいのだけれど。
玄関先が少し賑やかになる。
そろそろ部屋の中に入れても大丈夫かも、もう少し紙で出来たお花を飾りたいけれど、流石に待たせすぎてしまって心配させるから。
私は玄関先の扉を開ける。
心配げな表情で今にも泣きそうな百合の顔、むすっとしながらも目は真剣な写楽――二人に笑いかける。
「もう、大丈夫だから」
皆の温かさに気付いて、落ち着いてきたから――と言外に含めて、微笑みかける。
「そう、僕がいたからな!」
どやぁっと胸を張って大いばりする北斎に、百合がぺしっと頭を叩いた。
「痛い、何をする! まぁいい、中へ入ろう」
「一体どうしたんだ、北斎がもう良いと言うのなら、家に帰ろう?!」
「――ふふ、二人とも忘れてるね。すーっかり。なら、これでもすれば思い出せるかしら」
私は北斎に合図して、北斎と二人で百合と写楽に向かって、クラッカーを鳴らす。
ぱしゅんっと鳴ったクラッカーは、写楽や百合を驚かせるには、もってこいだった。
「……こ、んなときに何を……」
「中に入って、皆。あのね、私、大事なことを忘れるところだったから」
皆が中に入れば、部屋の中にあるケーキに驚く百合と写楽。
いや、二人が驚いてるのはそれだけじゃない、――よかった、アルバムに気付いて手に取ってくれた。
アルバムを二人はそれぞれ捲る。
「百合、ごめんね。無理をさせたよね。無理をさせた結果で、今喋り方がそうなのかもしれないけど、私は前の女性みたいな喋り方も好きだよ」
「か、おる――」
「写楽、皆をいつも心配してくれてる気持ちは伝わってるよ。写楽にもでも、笑っていてほしいな。だから、このアルバムを見て、貴方も笑えるのだと思い出して欲しい」
「――……何を」
「北斎、手伝ってくれて有難う。私があの言葉、言っても良いよね」
「譲ってやろう!」
「メリークリスマス、皆――。私ね、皆が大好きよ」
――今は、今はこれで許してくれないかな。
皆への返事。
誰一人欠けちゃ嫌だ、誰一人特別視も嫌だ。
けれど、焦る余りに皆が個性を失っていくのも嫌よ――。
「か、おる……薫……――貴方は、自分が、ふられた後だっていうのに!」
「ふられたら必ず泣いていなきゃ駄目かな?」
「違うのよ! そんな貴方が、素敵だと言いたいのよ!
薫、有難う――あたしはあたしのままでもいいと言ってくれて!」
百合がハンカチを手に、ぶわわわっと号泣していく。
よしよしと頭を撫でると、写楽が眺めていたアルバムを私の頭に載っける。
「このアルバム、実に惜しい。足りない被写体がある」
「何?」
「笑顔で映る今日の、貴様らだ。他は、まぁ、悪くない」
写楽が咳払いしながら告げたので、私はカメラを用意する。
ねぇ、北斎。貴方が教えてくれた、インスタントカメラって素敵だね。
幸せを閉じ込められる、いつが幸せだったかいつでも思い出せる。
それから、そこに、幸せを付け足せる――。




