薫の為の龍であるから
「薫、ココアでいいか? とびきり甘い奴にしてやる」
「――とびきり甘いのが好きなのは、北斎でしょ」
私が笑うと、北斎もようやくほっとした笑みを向け、私をアトリエのソファーに座らせ、北斎はココアを持ってきた。
「薫。失恋したばかりのお前に言うのも、かなり、……酷い所行だとは判るが」
「何、気になるから教えて」
「僕はきちんとお前に言っていなかったな、と思って。
魔女のこと、一人で抱え込んで確信が出るまで、教えられなくてすまなかった」
「……ううん、気にしないで」
「――……薫、今も、まだ、笑えないか?」
「……心から笑えっていうのは、流石に無理だよ」
「そうか、――世の中には、人間が何十億もいるらしい。
その中で愛する1を見つけるのは簡単でも、思い合う1同士を見つけるのは、すごく難しい。ええと、その……薫!」
北斎は私をぎゅっと抱き寄せて、その身体は震えていた。
「お前には、僕がいる! 僕は、だって、お前の龍なのだから!」
「北斎――」
「本当は恋愛感情なんて嫌いなんだ、僕は。
だって、恋愛感情を持てば、皆ぎくしゃくする。写楽と百合はライバルになってしまっている。
魔女だって昔は仲良く遊べたのに、途端に敵になった。
そんな、信頼がいとも簡単に壊れるのが怖くて、僕は皆がお前に恋をするのが嫌だった」
「……判るわ、だって、呪いが解けていなくても、私皆が好きだったけど追い出されたときの空気は怖かった」
「――本当は、お前の為だと、皆のためだと言いながらも、
追い出したのはそんな空気が怖かったのかもしれん。
僕が、僕だけが恋に戦う勇気の無い、臆病者だと自覚するのが。
けどな、それでも……お前が僕を呼ぶ声や、顔が離れないのだよ」
北斎は私の頬を撫でながら、瞳を間近で覗き込む程の至近距離で微笑んだ。
にかっと少年の、子供独特のあどけない笑顔で、ふと私はいつもの北斎が此処にいるのだということに、少し喜んだ。
恋愛関連になってから、北斎は厳しかった――だけど、目の前にいるのは、怖い北斎じゃない。
「僕は、何があっても、お前の龍だ。いつでもココへおいで」
北斎はへにゃと力の抜けた笑みを浮かべ、私の頬をびょんと両手で引っ張った。
「間抜け面が、お似合いだと、写楽なら言いそうだな」
「北斎……――」
なんとなく、だけど。
何となくなんだけど、前の私達より、一歩踏み出して仲良くなれた気がした。
多分、前は北斎が私に、気配りという名の警戒をしていたからかもしれない、今は……今は、もうそんな気配はしない。
それがほんのり嬉しかった。
「ねぇ、北斎、手伝ってくれない? 皆にしたいことがあるの。皆、ココに集まるんでしょう?」
「うん? いいぞ、お前の手伝いなら任せろ」




