こちらの世界での写楽
写楽は生まれ変わった魔物で、このニホンという場所にいる全員に声をかけてくれたらしい。
その手段は不思議な機械でされていて、僕の鞄の中にもあったが、使い方がさっぱり判らない。
写楽が気付くと、僕のそれをあっさり使いこなして、僕に手渡す。
「オレの連絡先を入れて置いた、困ったら使え」
「使えも何も、僕は使い方が……」
「それと! 自分のことは、〝私〟と言え。貴様が女子であるのが判ったのだから」
「うーん……向こうの世界だと、性別なんてなかったもんね、ぼ……私には。
それで、これどうやって使うの」
写楽が「うちの会社は全員元魔物雇用だぞ」と言っていたので、カイシャという場所へ鉄の馬車みたいなものに乗って向かう。
馬車の中で、機械の使い方を教わる。
「貴様は特にこの機械を使いこなさなければならない役職らしい」
「何それ、ここでの私の仕事って……」
「女子高生、というやつだ」
いまいちぴんとこないでいたら、馬車が止まって扉が開き、大きな建物が沢山連なる場所へ……。
その中でも一際大きい建物があり、それは写楽のものだという。
「写楽の仕事は?」
「見目の良い被写体を売り出すというらしいのだが、いまいち掴めん」
「写楽、でも、その、溶け込んでるね」
他の大きな建物に入っていく人達皆が、写楽みたいな服を着てる人が多くて。
入っていく人達皆写楽に負けず劣らずきらきらしてる。写楽と私に気付けば、じっと見つめてそわそわしていて。
女の子達も綺麗で可愛くて。同じくそわそわして、写楽がどう出るかをじっと見つめていた。
少し写楽を遠く感じていると、写楽は目を眇めて。
「オレがまっさきに馴染めなければ、誰も平穏に暮らせないだろ。その中には、貴様とて含まれている。……真っ先にこのオレに出会えたことを感謝するといい」
「? どういうこと?」
「……貴様の面倒を、此方でも見てやるということだ! 他の奴らもな! おい、皆、この御方が魔王様ぞ」
注目を浴びてることに気付いた写楽が、周囲に大声で言うと、周囲の人々は歓喜して、私へ抱きついたり笑いかけたりしてくれた。
皆からの抱擁より、一回だけ撫でて笑ってくれた貴重な写楽の笑みのほうが、暖かいな。