適応能力
「皆はずるい、適応能力が高すぎる」
北斎の手を引いて、公園まできたところで、北斎はやっと落ち着いてくれた。
甫坂さんは何か予定が入ったのか、「後でまた迎えにきます」とまた先ほどの建物へ入っていった。
北斎は、オレンジジュースを飲みながら、仏頂面をしていた。
「この飲み物もそうだ。僕の今の年齢で好むことはおかしいと、言われた」
「オレンジジュース好きなの?」
「ああ。向こうの世界でも、果実が大好きだった。
だけど、この世界では僕の年齢では、珈琲とか紅茶とかを好まなければならないらしい。
薫も写楽も、百合も皆、この世界にさっさと馴染んでしまった」
北斎はそっと指に、炎を宿してから、一瞬で消すと寂しげに笑う。
「魔法を僕だけ覚えているのも、この世界に馴染めない証なのかもしれないな」
「そんなことないよ。北斎は、覚えてるかな、私にカメラをくれたよ。
この世界で思い出を形にできるようにって。
一番最初に、私に趣味になるほど大事な思いをくれたのは、北斎だよ。
北斎だけが馴染めない、なんてないよ」
「――……薫。でも、僕は……仲間はずれで馴染めないのも嫌だが、馴染むのも怖いんだ。
僕が、龍であったことは幻だったのかな、って思ってしまう」
怯える北斎をそっと抱き寄せて、背中にぽんぽんと安心するように一定のリズムで叩いてみた。
伝わればいいな、怖いことは消えるように祈っているよ、って。
「大丈夫。北斎がとても強い龍で騙されやすさのあまりに、
勇者たちに騙されて写楽の勇者を陥れる作戦を、
勇者にばらしてしまったことはずっと忘れてあげないよ」
「薫、それは駄目だ、それは忘れよう」
「駄目、忘れてあげない。ずっと、ずっと私達の大事な思い出」
「……も、もっといい思い出は、ないのか?」
「幼い頃に背中に乗せて貰って、空へ行ったのも覚えてるよ」
「……――良い思い出、あるなら、嬉しい」
北斎は、少しだけ幼い笑みを浮かべて、頬を掻いた。
安心してくれたようで、「帰ろう」と手をさしのべた。




