大混乱北斎
百合の控え室を三人で探していた。
甫坂さんは保護者として、北斎は私よりかは建物になれていた。
三人で百合の控え室を見つけて、ノックをしようとする直前、怒鳴り声が聞こえた。
「その日は絶対に休みが欲しいって言ったじゃないっすか……!」
「しょうがないだろう、仕事なんだ! 文句があるなら、社長に言え!」
「どうして……ッ、ああ、もう!」
今にも泣きそうな声が響いたので、私と甫坂さんは顔を見合わせて様子を窺おうか悩んでいたのに、北斎が空気を読まず扉を開く。
「百合、化粧ぽぉち届けにきたぞ」
「ちょ、ちょっと北斎、今は……」
空気が悪そうだよ、と言おうとするも、ぼろぼろ泣いてる百合が、私を見つけるなり突進してきて抱き締めてきた。
「薫ーーーー!!! 聞いてくれよ、クリスマスの予定、仕事になっちゃった……!」
「百合、苦しいよ、百合」
「だって、俺、クリスマス楽しみにしていたのに……!」
……百合にちょっとだけ違和感。
あれ、百合って……こんなに雄々しい表情する人だったっけ?
「大方儲かるから、写楽が予定を年末年始終わるまでびっちりいれたんだろう」
「あの鬼畜……!! そんな、酷いよ、俺、色々クリスマス考えていたのに!」
「……百合、なんだその喋り方は? 何となく不思議だ」
「え? ああ、ええとね、こっちでは男だからそろそろ男らしくしようと思ったんだ。
いつまでも女の子ぶっていても、な。それに、男でもいいかなってそろそろ思い始めたから」
「……――まさか、百合。お前は……」
北斎が目を眇めて、私を百合から離そうと引っ張る。
百合は私に抱きついたまま離れないから、身体が痛い。
「痛いから、痛いから!」
背中をばしばし叩くと、百合はようやく渋々と離してくれた。
「薫、百合に近づいたらいけない」
「どうしたの、北斎。急に……」
「――すっかり忘れていた、こっちの世界では百合は敵なんだ。薫に関しては」
「……? 私に関すると、敵なの?」
「うん、敵だ。百合、教えろ、お前が拘るクリスマスに何があるのか!
薫もクリスマスって浮かれていた! なんだ、チキンとケーキの日じゃないのか!?
僕の知らない何かがあるなら、ずるいぞ、フェアじゃない!」
「イエス様の降誕祭です」
「そういう意味で聞いてるんじゃない、知ってるぞそれくらいは!」
甫坂さんの言葉で、北斎は益々苛立つ。
「はっ……そうか……そういうことなのか、これは……あれだな。クリスマス、とは……陰謀説」
「違う、違うよ、北斎。ちょっと落ち着こう」
百合の控え室で映像が流れていたテレビが、クリスマス特集へと変わる。
アナウンサーの言葉が、控え室に響き渡る。
『クリスマスといえば、イルミネーションが綺麗でデートにぴったりですよ。ホワイトクリスマスにでもなれば、恋人達の日にぴったりではないでしょうか!』
「こいびとの日……」
「ほ、北斎、家族と楽しく過ごす日でもあるから」
「なんだ、なんなんだクリスマスとは! 恋人の日であり、家族と過ごす日?! 尚且つケーキが美味しい日!?」
「先生、イエス様の降誕祭でもあります」
「だからそれは知っている!! 甫坂さん、どうしてだ、何故そんなどや顔をしている?!」
北斎が、混乱で頭パンクしそうだったから、百合に忘れ物を渡すと、北斎の手を引いてそこから立ち去る。
「忘れ物確かに届けたから、頑張ってね、百合。行こう、北斎!」
「うーん、うーん。ケーキと家族でイルミネーションファイヤー……」
「先生、イエス様を忘れないでください」
「甫坂さん、今は駄目です、忘れさせてあげて」




