現代の魔法
「いつまで花畑の写真を抱えているんだ、北斎」
「だって、花畑……欲しかった」
「いつまで自分の才能に悩んでいる、百合」
「あたし、ここまで怖い人だったなんて……」
「北斎、まず花畑を手に入れても、手入れで逞しく日焼けするマッチョになるだろうよ。
百合は、その歌が好きな層もいるから安心しろ、ただ儚さはない」
きっぱり言い切る写楽に、二人は、同時に頭を抱えて、ううっ、と唸る。
「それよりも、だ」
写楽は冷蔵庫にいつも貼ってある小さなホワイトボードを持ってきて、そこへ文字を書き始める。
『北斎、この空間を見聞きできなくするか、カモフラージュさせろ、魔法で』
北斎は瞬いてから、頷いて指をパチンと鳴らす。
とても強い白檀の香りがふんわりと漂い、私はこの香りが嫌いになりそうだった。
「薫、情報をやろう」
「カモフラージュしてまでってことは魔女の話……?」
「魔女の話だ、魔女は――恐らく甫坂という男だ」
「甫坂さんが!? 有り得ない!」
私よりも北斎のほうが驚いていた。その驚きにも、写楽は冷笑を。
「あの男、入念に記憶操作しているな。
尚且つ北斎の便利さも利用している、成る程、身内を雑に扱われるのはとても腹が立つ」
「写楽、話が見えないよ。どういうことなの?」
私がクッションを抱き寄せながら、声を震わせじっと見つめると、北斎はホワイトボードに書いた文字を消しながら話を続ける。
「あの日、アトリエから帰ってきてから北斎も薫も白檀の匂いを一日中させていた。
あの場に中々入る許可を下ろされた奴は、少ないんだ。
そもそも――甫坂は機械に疎いようでな、……あの日玄関に設置されてる監視カメラを忘れてたらしく、ばっちり出入りが映っていた」
『……――写楽』
私と百合、北斎は顔を見合わせ、写楽をじっと見つめてから、三人で写楽に飛びつく。
「何をする! 頭を撫でるな!」
「偉い、偉いわ、写楽! 尊敬しましたわ!」
「流石僕の愚兄! とても素晴らしい!」
「写楽、本当なの!? ねぇ、本当なの?!」
「落ち着け、三人一気に話すな!」
写楽が乱された髪型を手櫛で整えながら、尊大にふんぞり返る。
褒められて嬉しいのなら、嬉しいって笑えば良いのに、照れくさいのかな。
少しだけ、可愛く思えてしまった。




