火花散る魔物
ホットケーキを皆に作ろう。
だいぶ心配をかけてしまったようだし、皆に何かおやつでも作れたらいいなって。
それともクッキーにしようかな。
とくに北斎は、自分がアトリエへ連れて行った責任を感じているからか、それとも涙を直接見たからか、しょげていた。
「薫! もう大丈夫ですの!?」
百合が帰宅するなり、台所へやってきた。
百合は最近、多忙な中、暇を見つけては我が家に帰ってくれる。
この家はすっかり居心地いいから、普段の御礼もかねてお菓子を作ろうとしたのに。
見つかっちゃった。
「薫……何をこれから作るというの?」
「? そうだね、クッキーかホットケーキか……」
「薫、そこに納豆をいれてはいけませんわ。どうして此処に納豆がありますの!?」
「美味しいかなって思ったのだけれど」
「薫は料理上手なのに、お菓子は味覚音痴ですのね。
まぁいいわ、作るの手伝います!」
「ううん、これは私一人で作りたい」
私が答えると、百合は少しだけむっとした顔で不思議そうに小首傾げた。
「私がね、もう大丈夫だよ心配要らないよってメッセージを込めて作ろうと思ったから。
あとはいつもお世話してもらってる御礼だね」
「薫……なんて可愛いの……!!」
照れくさいから笑みで誤魔化そうとしたら、百合は顔を真っ赤にして私の両手を握ってきた。
「百合?」
「お菓子よりも貴方を食べたい――」
「ゆ、百合? 何だか怖いよ?」
「怖くもなる、だって許せない――泣いたのが他の男の前だなんて」
百合は私の片手にキスをしてから、ふと、ソファーで寝ている北斎に声をかける。
「ねぇ、涙を一人見せてもらった貴方は、それでなんでふて腐れてますの? 北斎」
「僕がふがいないからだ! 魔法を、使えるたった一人なのに!
なのに、魔女なんかに遅れをとっている! 魔女が誰だか判らないせいで、薫を泣かせた!」
「やーね、これだから子供は。勝手に一人で苛立たないでくださる?」
「だって! 僕が薫を泣かせたも同然だ、薫を落ち込ませた!
それに、それに――それほどまでに思われる魔女がずるい!」
北斎は、苛立ちを八つ当たりしようと決めたのか、クッションを百合に投げつける。
投げつけられた百合は受け止めて、クッションを持ち、笑顔で何かが切れたようだ。
「北斎は子供そのものね。何事も、上塗りってできますのよ」
「上塗り?」
「初恋が永遠に続くとでも!? 薫の恋心は、もっともっと熱い美しい恋を求めてるはずですわ!
だから、あたしが上書きしちゃうから、貴方は黙って眺めてるといいわ」
「何だと? 百合、聞き捨てならん……薫は、お前のものじゃない」
「貴方のものでもないですわね」
「薫に決めて貰おう! 薫、答えろ、お前は百合と僕ならどっちが恋人にしたい!?」
急に問いかけられても、困るんだけど、な……二人の目は真剣さそのもので。
「儚い人かな」
何となくで答えた言葉。
「よし、僕はきっと儚い!」
「あたしだって儚いはずですわ!」
「百合は逞しすぎる!」
「北斎、すーっかり生意気になってしまって! こうなったら……」
雲行きが妖しい。
「こうなったら、勝負よ北斎! どっちが薫に好かれるか!」
「望むところだ!」
どうしてそうなるの、って頭をリアルに抱えてしまう私だけが、この空間では異質であった。




