写楽の応援
「さて、食べない馬鹿な主君は誰だ」
「写楽……皆は?」
ご飯は作ったけれど、食べないで部屋に閉じこもっていたら、写楽が心配してお粥を持ってきてくれた。
多分体調を心配してくれたのかな。
「北斎のアトリエで泣いたらしいな?」
「うん」
「髪から白檀の匂いがする」
写楽が私へ顔を近づけて、匂いを嗅ぐので、思わず写楽の顎を押しやって遠のける。
「痛いな、何をする」
「ねぇ写楽、何も思い出せないの。なんで泣いたのかも、こんなに悲しいのかも」
「……白檀の匂いには、心当たりがある。貴様は、記憶を消された。
恐らく魔女と出会ったのだろう。北斎からも白檀の匂いがしていた、あの場に誰か来ていたということだ」
「……――不思議だね、魔女はそんなに私に出会いたくないのかな」
嫌われるのは悲しい。
嫌がられるのは寂しい。
そんな思いで、胸がぎゅっとしてると、写楽がにやける。
「ほう? 魔王だった奴の言葉とは思えないな」
「写楽、どういう意味?」
「世界中の誰からも出会いたくない、誰からも避けねばと思われていた存在であった筈なのに、
貴様の口ぶりだと誰しもが貴様を受け入れるような物言いだな、と」
「……だって、魔女は魔物……」
「一つ、勘違いをしているな、薫。
魔王と魔物は、嫌われる存在だからこそ、仲間意識があった。
人間となった今、そこに縋る必要は無い――嫌う者もいて当然だろう」
「落ち込むことを言うんだね」
「それなら励ます言葉も捧げよう、それでも――オレ達は、薫が大好きだ」
「……どうして」
「さてな。北斎には北斎の、百合には百合の理由があるだろう。
オレは――昔、花を貰ったからかな」
写楽へ昔、花を贈呈したことがあった。
写楽はその時激怒したはずなのに、どうして切っ掛けが花なのかなと不思議に思っていると、写楽は微苦笑した。
「花はオレには毒なのだよ」
「悪いことをしたね……」
「見る分には構わん。……長い間、花という物を見なかった。
皆、花を与えればオレが嫌うと信じ切って。
確かに貴様にも怒った、けどあれは――オレには照れ隠しで。
花のプレゼントは、最高にロマンチックだと思わないか? ――それも、本人ですら忘れている誕生日に」
写楽は私の頭をぽんぽんと撫でる。
「何度でも落ち込め、何度でも白檀の匂いを持ってこい。
その度に、励ましてやる。だから、諦めたくないことを諦めるな――」
「うん……――有難う」
写楽の言葉は、嬉しいものだった。




