悪戯っ子な表情
「写楽、お風呂加減はどうだった?」
「薫か、百合から聞いたのか」
「うん。写楽……――写楽は、疲れていたのも勿論あったのは知っているよ。
けど、本当の気持ちは面倒だとか、イヤだとかじゃない気持ちもあるのに、
吐き出せないで苦しかったんじゃないかなって」
「……流石は我らが魔王様だ、臣下の気持ちに聡い。
……――戸惑っていたけれど、な。懐かしく親というものに接して」
写楽は湯上がりに浴衣を着ていて、自室で煙草を吸っていた。
考え込んでから、写楽は仄かに幼い笑みを浮かべ、私を手招きする。
手招きされた私は、写楽に近寄ると、写楽は内緒話をするようにして小声で囁く。
「嬉しかったんだよ」
耳元で囁く写楽は、何処かはしゃいでいて、疲れと一緒に解放された感情に見える。
「オレの親は淡泊だったから、余計に嬉しかった」
「かっこつけるの好きな君だから、百合に言えなかったんでしょう」
ひそひそと話しかけると、写楽は、あどけない笑みを浮かべた。
悪戯がばれた! っていうような、憎めない悪童の笑み。
「まァ……迷惑していたのも事実だしな。嬉しさとは別の感情で、面倒なのはまた違う話なんだ。
なぁ、薫。オレ達三人と暮らすのがお前にとっての幸せだと思っていた。
けど、お前には百合との付き合いが嘘だと知らずとは言え、
知っただけで泡を吹いて気絶するほどお前を愛する親御さんがいる。……オレは、間違えたのだろうか」
「……写楽。写楽の知った喜びとは別に、私の感情もあるよ、私は皆と一緒にいたい」
「お前が言うならいいが、……親とはいいものだな。中々面白い存在だ。
少々困った要素は見逃してやりたいくらいには、興味深い存在であったぞ」
「……――写楽の向こうでのご両親はどんな人だったの?」
「遠い昔のことだ、淡泊であったくらいしか覚えておらん。だから興味深い」
「今はもうその件は片付いているの?」
「ああ、やっと今日片付いて一年は放置して貰える。
偶に向こうへ顔を出せば、基本的には関わらないでいてくれそうだ」
「そう、お疲れ様だね、写楽」
写楽の頭を撫でると、写楽は真っ赤になり、私の手を払った。
「子供扱いするな、薫」
「どうして?」
「オレは大人だ、何より貴様忘れてないか? ――オレが、男であると」
写楽が、間近で瞳を見つめる。
その瞳に、何処か薄暗い炎のような熱が宿っている。
(――あ、そうか、私、女の子だった)
写楽は目を細め、私の顎を指先でなぞる。吐息が少しかかって、くすぐったい。
「貴様は、女の自覚が足りぬ、な?」
「ええと……」
「次からは男の部屋に夜一人でのこのこ来たら、説教だからな」
ああ、許して貰えたようだ。
私はほっとしたけれど、離れた写楽に少しだけどきどきして、落ち着くまで待つ。
落ち着いてから、部屋を出ようとしたら、写楽が声をかけてきた。
「――オレが倒されたとき、毎日のように会っていた奴らと会えなくなるのが怖かった。
その中には貴様も含まれている。薫、いいか、自分を安売りするなよ。
自分の持っている時間や、人と出会える回数を、無駄にするなよ」
「……――いつもの写楽だね。おかえり、写楽。夕御飯はハンバーグだよ。温め直してくるね」
持っている時間と、人と出会える回数、か。
それなら、私は皆に沢山時間を使って、北斎や百合や写楽と顔を合わせる回数を増やしたい、かな。




