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写楽の疲弊

 写楽はここ最近ふらふらになって帰ってくる。


 百合もふらふらだけど、百合はまだ余裕があるように見えた。


 私の顔を見ると百合はにこにこと嬉しそうに甘えて、膝枕を要求するから。


 その度に北斎は目を鋭くして百合を見つめた後に、甫坂さんに背中を押されアトリエへ向かうのが常だった。


 北斎の機嫌が悪くなるのを気にすると、甫坂さんは毎回微苦笑して、「大丈夫ですよ」とにこにこしてくれた。




 不思議だ。


 甫坂さんといると、少し落ち着く。


 甫坂さんは他の人間にはない落ち着いた空気を持っている気がした。




「薫、ただいまですわ……」


「ただいま、薫、北斎」


 百合と写楽の二人はげんなりとした様子で、帰るなりソファーに座るとうなだれていた。


 偶々アトリエから帰ってきていた北斎が不思議そうにして、甫坂さんに向かって二人を指さして問いかける。


「今度この二人をモチーフにして、彫刻作って良いか? タイトルは、そうだな、囚われの現代人」


「先生、タイトルにセンスがないのは相変わらずですね」


「冗談はともかく、甫坂さんまで口止めされてるのか」


「何をです?」


「――甫坂さんもずるい大人だな。僕は知ってるぞ、写楽。


お前達に何か秘密があるのを。ここ数日お前と百合は一緒に行動しすぎだ。


百合がお前のサポートをしてるとしか思えん。おい、写楽、せめてお前の口から薫に教えてやれ」


「オレからのほうが言いづらい内容だと、何故貴様は人間になっても空気が読めない?!」


 写楽がキレながら、八つ当たり気味にスーツの上着を脱ぎ、ソファーへ叩きつける。


 百合が言葉なく私に雑誌を手渡してくれた。


「あ、百合の新曲が出たのね」


「注目はそこじゃなくて。……このページですわ」


 百合が開いてくれたページを見ると、私は目を瞬かせてしまった。




『大手芸能事務所社長S氏と、大女優Nの娘の婚約!?』


 そんな見出しと一緒に、写楽が写っていた。


「写楽、先にお風呂行ってイイですわよ、状況は貴方では言いづらいでしょうから、


説明しておきますわ。貴方は先に疲れを癒やしてくると宜しい」


「ああ、恩に着る。話はまず、風呂に入ってからな、薫」


 写楽は私の頭をぽんと撫でると、死んだ眼をして笑っていた。


 向こうの世界でも見たことのない疲れた目だった。


 百合が気遣ってしまうのもしょうがないほどに、気の毒な目。




 でも疲れの中に――……。


「最初はデマかと思いましたのよ、コラかしらって笑ってましたわ。


娘だけの名前でスクープされてましたからね。でも、娘が大物女優の娘だって報道されて、話が大騒ぎ。


写楽に事情を聞きましたら、写楽と北斎のご両親によるお見合いで来た娘だそうですの。


写楽は断るつもりだったのですけれど、もし断ったら北斎の仕事をさせなくしてやるって……」


 私と北斎は驚いて顔を合わせてから、百合へ視線を向ける。


「それで、今の写楽になる前の日記を読ませて頂きましたら、


過去にこういった経緯はたびたびあった様子で、日記曰くご両親による構ってちゃん行為だそうですの。


ご両親のご機嫌を窺って窺って、ご両親が満足すれば一年は放置できるそうですわ。全くくっそめんどくせえやつら!」


「百合、言葉が汚いぞ。薫が怯える」


「口汚くもならぁ! ありゃ何だよ! 


日本語になってねェんだよ、何を言っても『写楽が実家に帰ってくれないのが寂しい』しか言わない!


 どうしてこんなことをと聞けば、寂しかったと。


やめてくれと頼めば、それなら遊んで、と。あたしたちには仕事があるのよ、


薫を養うっていう嬉しい仕事ごほうびが! 人間関係ってくっそ面倒ですわ!」


 百合が頭を抱えながら叫ぶので、思わず水を持ってきた。


「百合、……写楽と話せないかな。二人きりで」


「いくら何でも薫、今の写楽は疲れてますわ。


……何か疲弊させるようなことは、貴方様でも許せません」


「……ううん、写楽の気持ちを聞きたいだけだよ。


写楽には、きっと皆に言えない気持ちがあるんじゃないかなって」


「……? ――そうね、薫がそういうなら信じますわ。でもでも、最後にはあたしの腕に帰ってきてね!」


 百合は私をぎゅーっと抱き締めてから、見送ってくれた。



 北斎は不思議そうに小首傾げていたけれど、甫坂さんに止められたので、同じく見送ってくれた。



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