表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
30/59

第27話


プタリナの都市を出てまた二週間あまりは、稀に現れるモンスターや野盗を討伐しながらの野宿の旅となった。

この辺りの地方には大きな町もなく、小さな村々が点在している。そして、今日。その村のうちの一つに、ソラたち一行は辿り着いたのだった。


ところが。


「……むごい。本当に壊滅させただなんて……」

「噂には聞いちゃいたが、こりゃ酷いもんだな」


今、ソラたちの目の前に広がっているのは、『かつては村であったモノ』。

凄惨な殺戮の痕跡を残す廃墟だった。


少し前まで百人にも満たぬ獣人たちが慎ましく暮らしていたというが、今では生きている者の姿は見当たらない。その代わり、所々が瓦礫と化した家並みの至るところで、数多の遺体が転がっていた。生き残った者たちも、捕虜として連れて行かれたらしい。

そして−−

この、悲惨な光景を生み出した存在の名を、ソラたちは知っていた。


「……これが、帝国のやり方なのか」


度々、自国の周辺にある他種族の集落を襲っては、侵略と虐殺を繰り返す。

近年になって、その襲撃の頻度が更に高くなってきているとも聞く。この獣人たちの村も、襲撃を受けて滅びたのは比較的最近のことであろう。

そんな中で、帝国は近々、近隣に存在する“獣人の国”と戦争を起こすつもりである、と実しやかに噂されていた。


(これを見る限り、戦争が起きるって噂が本当である可能性も高まってきたな。現に、この村に限らず獣人の国の集落が次々と襲われていると聞くし、それでなくても、最近は両国間の紛争が頻発しているらしいし……)


プタリナが属する共和国を抜けて今は獣人の国に差し掛かり、いずれは帝国をも通ることになる一行にとって、とても無縁とは言えぬ話である。

かの聖地への旅路もより過酷なものになりそうだ、とソラが心の中で呟いた−−その時。



唐突に、背後から迫ってくる者の気配を感じた。



「…………!」

気付いた時にはもう遅い。一瞬で距離を詰められて、振り返ることすら出来なかった。エリルとカイトも反応できずに、驚愕の表情で立ち竦んでいる。

ところが、直後。

ソラの背に当てられたのは、必殺の刃ではなく。


「−−ソラっ!」


既視感ある、あたたかい抱擁だった。


(……トッティ⁉︎)


ソラに抱きついていたのは、明るいブラウンの髪に大柄な体躯を持つ人魚であり、他ならぬソラの友人であった。

しかし何故、トッティがこんなところに……と混乱するソラに、また別の声がかかる。


「……久しぶり、ソラ。しっかし、いきなりこいつに抱きつかれるとは災難だったな」

「いやいや、ソラが行方不明になってから、俺らはずっと必死に探してたんだぜ? 折角の感動の再会なんだし、これくらいやっても構わないだろ!」

(バランまでっ?)


トッティと同様に突如現れた、青みがかった黒髪を持つ長身の青年。その顔に安堵の笑みが浮かんでいるのを見て、ソラもようやく状況が理解できた。

トッティとバランは、刺客たちの襲撃と神殿の崩壊によって消息不明となっていたソラを探しに来てくれたのだ。

ソラの反応から、この二人がソラの知り合いであると悟ったエリルたちも、一先ずは安心したようだった。


どうやって居場所を割り出したのかは

分からないが、まさか此処まで来てくれるとは夢にも思わなかった。嬉しくて、それでもやはり声は出せず、感謝の意を伝えられないのがもどかしい。

ソラが首にかけた小さな黒板に手を伸ばすと、バランが分かってるという風に頷いた。


「大丈夫だ、俺たちも大抵の事情は知っている。〈呪い〉についてソラが気に病む必要なんてないんだ。だから」


……ここで、不意に、ソラの肩を掴むトッティの腕の力が強まった。

バランも、平素と変わらぬ表情で、しかし、どこか有無を言わせぬ響きを声に滲ませて……ソラに告げた。


「だから、地上こんなところにいる意味もないだろう? 早く海底の王国に帰ろう」


「……ええっ⁉︎ ちょっ、ちょっと待ってよ!」

バランの言葉に、エリルが慌てた様子で応えた。

「ソラは今、ぼくたちと内陸の『聖地』を目指しているんだ! そこに、ソラの〈呪い〉を解く為の手がかりがあるかもしれなくて……だから、まだ、海に帰るべきじゃないと思う!」


その声に、バランが振り返る。

今までだって彼女の存在に気付かなかったわけがないのに、たった今、ようやく関心を向けたかのようであった。

しかし、エリルを初めて捉えたその瞳は−−深海の底を覗き込んだかのような、昏い感情の色を宿している。


トッティの腕の中に囚われたまま、バランのその瞳を見た瞬間−−ソラの脳内で警鐘が鳴り響いた。


「……内陸まで行けは、呪いを解けるかもしれないだって? ソラ、お前は、そんな嘘みたいな話をそこの人間たちに吹き込まれていたのか?」

「そんなっ、嘘なわけあるもんか‼︎」


次には冷ややかに言ってのけたバランに、エリルがムキになっている。カイトもそんな二人の様子を眺めている。

そんな中でソラは、気付いてくれと、必死に口を開いた。それでもやはり声は出せず、音にならない警告は、本人の心の中にしか響かない。届かない。


−−えりる。かいとさんも。


「ソラ、お前は騙されてるんだよ。人間たちが言うことなんて信頼できる筈がないだろう? それに、もし今の話が本当だとしても、ソラをそんなところには行かせない。……そもそも、『〈呪い〉を解く必要などない』のだから」

「呪いを解く必要がない⁉︎ 一体何を言って−−」

「ソラ」


バランが、再び、関心をなくしたようにエリルから視線を逸らした。その、濃紺の瞳が−−関心が、エリルを見つめていたソラだけに向けられる。

呼びかけられたソラは、いよいよ顔面を蒼白にさせて、声にならない叫び声を上げた。


−−えりる。

−−いますぐ、


「ソラ」


もう一度呼びかけて、バランは優しく微笑んだ。


−−いますぐ、にげ



「早く海底の王国に帰ろう。−−勿論、お前を誑かした人間どもを此処で始末してから」



なんてことないような、柔らかな口調で言って。

次の瞬間、


伏兵として潜んでいた人魚マーマン族の兵士たちが、エリルとカイトを槍で貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ