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赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
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第26話

今回でプタリナ編は終了です。

次回は二回ほど、番外編めいた話を投稿させて頂く予定です。


大陸最北部に広大な国土を有する帝国は、古くから、とある宗教の教会と密接な関わりを持っていた。


元来は、他種族間でもある程度の調和が保てている現在とは異なり、種族同士が敵対し戦争を繰り返していた時代、人間ヒューマン族によって興された宗教であった。現在は複数の宗派に分かれているものの、他種族の民からの信仰も得たという一部の宗派を除けば、全体として未だヒューマン族以外の種族を蔑視する傾向が残っていた。

その中でも、帝国と繋がっている教会は、所謂“過激派”と呼ばれる宗派である。こうして、ヒューマン至上主義の名の下、国全体が他の種族を差別し侵略することを奨励しているのだった。


そして。


そのような趨勢において国内で求められるのは、自分たちの考えを肯定してくれる〈神話〉の存在である。

それに使われたのが、数百年前、『人魚マーマン族による大陸の侵略を防いだ』と伝えられる聖人の存在であった。


今となっては、マーマン族が本当に地上に進出しようとしていたことさえ定かではない。

それ以前の問題として、自分から周辺の土地に攻め込んでいる今の帝国の在り方は、あくまでも自国を守ったに過ぎぬ彼の存在によって正当化されうる筈がないのだ。

それでも帝国と教会は、聖人の名を声高に叫んで、実際は己の利益の為でしかない侵略行為を繰り返す。


神話とは、所詮、権力者たちにとって都合の良い物語に過ぎぬのであった。



閑話休題。



「……その報告を、もう一度申してみよ」

「は、はいっ」


帝国の皇居、その謁見の間に、明らかに焦燥を滲ませた声が響いた。


この世の全ての贅の限りを尽くしたかと言わんばかりに飾り立てられた大広間である。室内に置かれた数多くの調度品は、その一つひとつが豪邸を建てられる程の価値があるだろう。

その中でも飛び抜けて絢爛豪華な、金銀やら絹の布やらで悪趣味なまでに飾り立てられた王座にこの国の皇帝が座していた。

まだ年若く、三十を過ぎたばかりかと思われる男だった。元々は美形と言って差し支えない目鼻立ちであったのだろうが、ぶくぶくと太った今の姿にその面影は全くない。その肥満体にも豪奢な衣装を纏い、太い指すべてに高価な指輪を嵌めていた。

動揺と苛立ちを隠そうともしない皇帝の様子に、従者は体を震わせつつも繰り返した。


「強力な〈魔工職人〉を捕らえるべく商業都市プタリナに派遣した部隊が、何者かの襲撃を受けて壊滅、指揮を取っていたグドン将軍も殺害されました。魔工職人の捕獲にも失敗し、かの者は、帝国と対立する宗派の教会に保護された模様−−」

「ドワーフの小娘などこの際どうでもいいわっ! 余が貴様に訊いておるのは、例の“襲撃者”の情報だ⁉︎」

「い、生き残った兵士からの報告によりますとっ、襲撃を行った者は二人! その内の一人は−−水の魔術を使う“赤い髪の人魚”であったそうです‼︎」


−−赤い髪の人魚。


その言葉に、皇帝の側に立つ高官たちの間にざわめきが広がった。皇帝に至っては、今にも正面の従者に噛み付かんばかりの形相で唸っている。

無理もない。

人魚族の者も赤髪の者も少なからず存在するが、その両方を併せ持つ者は、『かの〈神話〉に登場する人物』の血族に連なる者に他ならぬからである。


「同じ神を崇拝しているにも関わらず異種族の魔導師をも崇め、あまつさえ近年は『隣の獣人の国とも深い繋がりを持っている』と聞く国外の宗派が、かの聖人と共に奉っているという【紅の賢者】……その血を引く者だというのか? 本当まことに子孫が実在すると⁉︎」

「その可能性は充分にありますな。しかし、いかんせん情報が足りません」


衝撃の事実に戦慄する皇帝に対して、高官たちの中でも年嵩の者が冷静に指摘を行った。


「あくまでも、その者の正体を探ってから、然るべき行動に移るべきかと。……しかれば、陛下。もし、誠に『かの人魚の子孫である』と判明した時……その者をいかが致しますか?」

「ぐぬぬ……下賤な異種族の、ましてや余の帝国に楯突いた者を、生かしておくなどの屈辱の極みであるが……ひとまずは生け捕りにしろ! 場合によっては、奴には利用価値があるやもしれぬ!」

「畏まりました。もう一人の襲撃者の方は……」

「例のマーマン以外に用などない! そうでなくとも我が帝国の兵を襲った不届き者、奴を服従させる為の人質に出来る場合を除いて、奴の仲間は容赦なく殺せ‼︎」

「「「……ははっ!」」」



−−こうして、少年たちの知らぬ場で、またもや別の思惑が動き始めていた。

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