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赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
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第24話


一連の騒動が終わった後、初めて眠れた夜に夢を見た。

夢の中でソラは、あの日、神殿で見た夢と同じように−−冷たい海の中を漂っている。


ソラは一瞬だけ慌てふためいたが、この前のように呼吸が苦しくなることはなかった。

それどころか−−


「あ……声、が」


−−現実の世界では出せなくなった声が、此処ではあっさりと出せたのだ。

声変わりを済ませた少年の、しかしまだ大人になりきれていない透き通った音。

そして。

その声に応えるように、別の声が、水中に響き渡った。



「久しぶりね、坊や」



「…………!」


耳朶から鼓膜を震わして、或いは、周囲の水から全身の肌に染み込んで。ずるりと体内に入り込み、脳も魂もどろどろに溶かしてしまいそうな−−美しくて恐ろしい声。一度だけでも聞けば決して忘れられぬ、そんな声であった。

ソラが背後を振り返れば、やはり、そこにはあの真珠色の髪の美女がいて、彼女は艶然と微笑んでいた。


「……【海の魔女】」

「あら、よく分かったわねえ。ええ、そうよ、わたしは地上ではそう呼ばれているわ」


海の魔女。【悪の魔法使い】の血族を呪い続けている人魚姫の亡霊。……ソラの声を奪った張本人。

魔女は恐怖と憎悪の表情を浮かべたソラを見ると、ますます楽しそうに笑って言った。


「この世界は面白いでしょう? 海底では聖女の如く崇められているわたしが地上では悪女のように扱われ、【悪の魔法使い】は【紅の賢者】と呼ばれる。王国で肩身の狭い思いをしてきた坊やにとって、地上はさぞ楽しい場所でしょうね」

「……地上が楽しいだって? そんなことない!」


その言い草に、ソラは思わず声を荒げた。恐怖を上回って、怒りが沸々と込み上がる。


「俺が全てのオークを倒せなかったせいで、アイランさんが死んでしまった! 帝国の兵士たちを襲撃したから、エリル共々、帝国に目をつけられたかもしれない! 苦しいことばっかりだよ‼︎」


こんな感情を抱くなど、あのドワーフの兄妹に対してあまりに酷であることくらい分かっている。それでも、ソラは激情のままにこう叫んでしまった。


「地上に出なければ、俺は、世界の悲しい現状を知ることも、理不尽な罪悪感を覚えることもなかった! 全部、全部お前のせいだ‼︎」


直後、ソラは自分で口に出した言葉に……今まで無意識に抱いてきた己の本心に傷つけられた。今まで知らなかった世界の現状を知った衝撃や、モンスターを討ち損じたことに対する後悔を、自分は内心ではこんな風に捉えていたのだ。

世界の残酷さも理不尽さも、自分の知らない、関係がない場所で起きた悲劇であるならばどうでも構わないと。心のどこかで、ほんの少しだとしてもそう思っていたのだ。俺はなんて身勝手なんだろう−−。


そんな感情さえも顔に出ていたらしい。魔女は歯嚙みする少年を見て、憐れむような、慈しむような目をした。

それから−−ソラに耳元に自身の顔を寄せ、そっと囁きかけた。


「それでも……“あの子”と一緒にいられることだけは、嬉しいでしょう?」

「っ⁉︎」

「このわたしを呼び起こし、〈呪い〉を発動させる条件。坊やも知っているわよね?」


知っている。否、知らない筈がない。

自分が呪われたのは何故か。あのヒューマンの少女に抱いている想いが何であるのか。


「あの子は、坊やが呪いによって声を失ったことは知らされているけど、『呪いの発動条件が何であったのか』は知らされていない。……ねえ、坊やは伝えなくていいの? それこそ声を失うほど大切な存在なのに?」

「……ふざけるな。俺が望むことを分かっている上で、お前は俺の声を奪ったんだろ」


ソラを見つめる魔女の瞳から、慈しみの感情などとうに消えていた。

そこに在ったのは、海よりも深い妄執と、海の底よりも昏い嗜虐心。

ソラはその瞳を睨みつけ、今や現実の世界では出せぬ声で、自身の想いを紡いだ。



「……俺は、他ならぬ自分の“声”で、エリルに−−」

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