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赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
22/59

第21話

(……何故だ?)



再び、視点を変えて。


グドウは、つい先程までとは一転、激しい憤怒と焦燥に身を焦がしていた。



(何故だ、何故、攻撃が当たらん⁉︎)


大剣を横薙ぎに振れば、後ろに跳んでどうにか避け、しかし、次の瞬間には再びこちらに踏み込んで来る。

魔法具の炎弾を放てば、氷の盾で僅かに軌道を逸らすことでどうにか避け、続けざまにその盾を投げつけてくる。

相手の斬撃を掻い潜り、蝋燭の魔弾をいなし、ただひたすらに前へ。

前へ−−


(−−この儂へ、立ち向かってくる!)


こんな筈ではなかった。

本来ならばこの小僧は、一方的に追い詰め、なぶり、一つの抵抗さえ許さず殺すつもりであったのに。


「何故、当たらぬ! 何故、たおれぬ‼︎」


苛立ちのせいで、次の一撃は、今までよりも大剣の振り幅が大きくなった。

その際に生じた隙を少年は逃さない。紙一重で剣身をかわしざま、細い腕を大きく伸ばして、その手のひらをグドウに向けた。


「なっ……⁉︎」


直後、首から心の臓にかけて、氷の手で撫でられたかのような寒気が走る。

考えるよりも先に後方へ跳んでいた。それは、グドウにとって初めての後退であった。


すると。


直前までグドウの上半身が存在した空間を、水と魔力で出来た刃が通り抜けて行った。


(……まさか)


ぽたり。

傷口から血が流れ出るように、冷たい汗がグドウの首筋を伝う。


此奴こやつは−−本気で、この儂を討つつもりか?)


ぽたり、ぽたり。

グドウに当たらなかった魔水の刃が、その結合を失って地へと落ちていく。


今もなお屋敷を焼く魔法具の火焔に照らされて、煌めきながら落ちていく滝の向こうに少年は立っていた。

つややかな真紅の髪が、黒目がちな大きな眼を静かに覆っている。

前髪越しに見える、その水色の瞳は−−迷いのない闘志と殺気を宿していた。


その瞳を見た、次の瞬間。



「ふ、−−ふざけるなあああぁぁッ‼︎」



増幅された焦燥と、新たに芽生えた戦慄とに掻き立てられて、グドウはがむしゃらに敵へと斬りかかっていった。





魔法具による攻撃で、エリルが脇腹を負傷したのを、屋敷の一角が破裂したのを見て−−掠っただけならば即死を免れたのを、屋敷そのものは爆破されなかったのを見て−−もしかして、とは思ったのだ。

そして今、実際に戦って、確信した。


(落ち着いて。『軌道』に接触さえしなければ、何とかなる。落ち着くんだ)


己に向けられた絵ろうそくの先端を見据え、その先の『延長線』を予測する。

その延長線から逃れることだけを考えて動く。


(確かに火炎自体の威力は異常なまでに強いけど、攻撃の軌道は直線な上、攻撃が及ぶ範囲も狭い。魔術が発動するまでの時間だって短くはないっ!)


大剣の切っ先が、ソラの白い肌に幾筋もの細かい傷を刻んだ。魔法具の放つ炎弾が、赤い髪を数本炙った。

それでも直撃だけは避けつつ、死と隣合わせに在りながらも、前へ。

相手の斬撃を掻い潜り、蝋燭の魔弾をいなし、ただひたすらに前へ。


将軍へと、立ち向かって行く!



(どうにかして将軍こいつを倒して、彼女エリルを護らなきゃ……!)



恐怖はある。苦痛もある。それでも、今この時、ソラの胸中の大半を占めているのはそんな本心であった。

それは、きっと。

十五歳という年齢に似つかわしい、後先を考えない愚直な蛮勇でも。世界中の大半の者が当たり前に抱く、ありきたりな義憤や正義感でもなく。

エリルただ一人を守りたいという、自分本位な、ソラ一人だけが持つ本心であった。


それを、きっと。

世間の者は、それを、“愛”とでも呼ぶのだろうが−−



「ふ、−−ふざけるなあああぁぁッ‼︎」



その鋭い目に焦燥と恐慌を滲ませて、敵ががむしゃらに斬りかかってきた。


(−−−−ッッ‼︎)


愛か恋と呼ぶには、余りに切実で、余りに暴力的で−−。

そんな感情に掻き立てられて、ソラもまた、将軍を迎え討つべく身構えた。

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