第19話
今回はソラorエリルでなく、敵視点からストーリーが語られます。
視点を変えて。
地面に座り込んだまま自分を見上げ、身を寄せ合って震える少年と少女の姿に、将軍−−グドウという名の男は、喉の奥から喜悦の笑声が込み上げてくるのを感じた。
グドウは、帝国で将軍職を得ている男であった。恵まれた家柄と確かな軍事の才で、大陸最北部に広がる大国の上級階級層をのし上がってきた。
それ故に、彼の思考と価値観は、帝国全体に蔓延する“他種族蔑視”の教えに忠実であった。自分たちヒューマン族こそがこの大陸を支配するに相応しい存在であり、ヒューマン以外の種族は奴隷……否、家畜に過ぎない。
だからこそ、今回のようなくだらない“任務”がこの自分に与えられたことを、彼は快く思っていなかった。
(たかだか一匹の家畜の捕獲ごときに、この儂が、このような所に駆り出されるなど……屈辱の極みだ⁉︎)
工業都市などと聞こえはいいが、貧しく下賤な難民やら移民やらでごった返した街。そこに住む、汚らわしいドワーフの癖に貴重な魔法具を作れるという子供。その〈魔工職人〉を拉致し、自国に連れ去るまでがこのグドウに与えられた任務であった。
膨大な魔力と優れた魔術を内蔵しているというその魔法具が、『近々大きな戦を行う』帝国にとって垂涎の品であることは嫌でも理解していた。事実、秘密裏に行われる任務でありながら、将軍職の自分を他国に遣わした程だ。しかし、それでも感情と自尊心が納得せず、この都市に滞在している間、グドウの気が晴れることはなかった。
加えて今夜は、無能な部下どもが間違えて誘拐してきた来た雄のドワーフの“始末”と、今度こそ目的の魔工職人本人を誘拐する為の兵士の手配に追われ。唐突な襲撃者たちへの対応と応戦に追われ……グドウの不機嫌は最高潮に達していた。
−−尤も。
その不機嫌も、つい先程までの話であったが。
「くく……帝国に、この儂に盾突きおったのが運の尽きだ。先程までの威勢の良さも吹き飛んで、実に痛快だな」
将軍は酔っていた。
この、圧倒的に優位に立った状況に。
何より、その状況を生み出した、己の手の内に在る魔法具の威力に。
魔法具の性能は、己の予想を遥かに超えていた。これ程の魔力があるのだ、どう考えても自分が負ける気などしないし、この魔法具と魔工職人を持ち帰れば、祖国にとっても極めて大きな利益となる。無論、作戦の実行者たるグドウも、より大きな栄誉と名声が得られるというもの。
「喜べ。貴様らはこれからの帝国の、より一層の栄光の礎にしてやろう」
既に、勝利が……目の前の二人を自分の思いのままに蹂躙する未来が目前にあるのだと、グドウは確信している。
絶大な自信と愉悦に身を任せ、彼は、少年と少女の元に足を進めた。




