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赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
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第18話


ごおっ、と勢いよく吹き出された炎の弾丸が、床を抉り焦がしながらエリルに迫った。


全身の肌で感じた殺人的な光と熱量に、考えるより先に体が動いていた。咄嗟に身を翻して直撃だけは回避する。

それでも炎によって生じた激しい熱風と衝撃波は避けられる筈がなく、エリルは勢いよく吹き飛ばされた。


「〜〜〜〜ッ‼︎」


床に叩きつけられ、ごろごろと転がりながらエリルは苦痛に呻いた。脇腹が焼け付くように痛い。否、ようにでなく、実際に火傷を負っていた。少し掠っただけでこうなのだ、直撃などすれば黒焦げになっていただろう。

ソラが必死の形相で駆け寄って来て、負傷したエリルの体を抱き起こした。


「ほう、小娘如きが避けてみせたか。だが次こそは、小僧諸共丸焼きにしてくれる!」


そんな二人を見下ろして、将軍は再度、蝋燭の魔法具を起動させた。蝋燭の先端に灯された小さな火は、再び、膨大な魔力を宿すことでその輝きを増していく−−!


対して動いたのはソラだった。エリルを自身の元に引き寄せつつ、己の魔力を高める。

次の瞬間、将軍とソラたちとの間に、巨大な“氷”の壁が出現した。

一瞬で魔術を完成させたその素早さもさることながら、魔力によって造られた氷壁は分厚く、密度も極めて高い。最強の魔法具が放つ炎の弾丸も、数発、数秒ならば耐えられる筈だ!

一方でソラは、いきなり眼前に現れた氷壁に対する将軍の反応も見届けるまでもなく、すぐさま走り出していた。エリルを引き摺るようにして−−敵に背を向けて、

そして、


彼が目指したのは−−部屋の奥の戸を開けた先に続く、広々とした“ベランダ”であった。


「えっ⁉︎ 待って、ここは3階っ−−」


戸惑うエリルを姫抱きにする。ソラの本心としてはこの場は男として格好良く決めたかったのだが、腕力が足りず、へっぴり腰になってしまっているのは仕様だ。

それでも歯を食いしばって、ググッ、と腕に力を込める。助走する時間はない、覚悟を決める時間だって一秒足らずだった。

ソラはエリルを抱えたまま、ベランダの柵に身を乗り出した。それから、地上を遠く闇の広がる眼下を見据えて、



飛んだ。



次の瞬間、夜の外気が、少年の真紅の髪と少女の漆黒の髪を薙いだ。

一瞬の浮揚感の後、重力が働いて。二人の体は凄まじい力で、屋敷の中庭の地面へと引きずり込まれていく。

ところが、二人が地面に叩きつけられる寸前、地上に“スライム状の球体”が出現した。勿論それはソラが魔力で作り上げたもので、ソラとエリルは、そのスライムの真上に向かって落ちた。

着地した瞬間、ソラの体には強い衝撃が走った。エリルを抱いたまま尻餅を付いた為、尻から腰にかけて鈍い痛みを感じた。それでも水のクッションのおかげで怪我をすることはなかった。


「そ、ソラ! 君って奴は……ッ!」


着地の衝撃に悶えつつもエリルを抱きしめたままでいるソラを見上げて、エリルの顔面は耳まで真っ赤になった。混乱した感情に目を白黒させている。

……場所さえ異なっていればこの一連の流れは、二人の意識と関係とを変えうるものだったかも知れない。だが生憎、今はそんな場合ではない。


何故ならば−−



ソラたちが地上に着地した直後、彼らの頭上で、建物の一角が破裂したからであった。



(時間稼ぎにもならなかった……⁉︎)


爆発が起きたのは3階部分、応接間があった箇所であり、それがあの絵ろうそくの仕業であることは明白だった。かつてマーロン郊外の神殿内で襲撃を受けた時、刺客たちが放った爆炎魔法にも耐え切ったソラの氷壁が、かの魔法具の火炎にあっさりと粉砕された。かの魔法具は、屋敷諸共、上級魔導師ソラの魔術を易々と打ち破いたのである。


(−−こりゃ帝国が、あの絵ろうそくを作った魔工職人マイアさんを狙うわけだよっ!)


轟音と破片がソラたちの元まで降り注ぐ中、直前までベランダだった場所に、爆炎と黒煙を背に巨大な影が立つ。

炎が逆光になっていて、表情までは見えなかったが−−将軍だ。

そのまま、彼は躊躇いなく虚空に身を躍らせた。次には、落下しながら、建物の外壁に剣身を突き立てる。ガガガガガッ、と白く滑らかな壁に傷跡を残しつつ、壁と刃の摩擦で落下の速度を下げ、見事、足から着地した。


「…………!」

「……そん、な」


改めて、実感する。

己の魔力を遥かに上回る『魔法具』のみならず。帝国たいこくの後ろ盾を、エリルをも圧倒する剣の腕を、あの爆発から無傷で自分たちを追ってきた強靭さと執念を……この男は持っている。


−−勝てない。


改めて自分たちに対峙する形で立つ将軍を前に、少年と少女は絶望に打ちのめされた。

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