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赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
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第17話


屋敷の階段を駆け上がって、廊下をひた走って。

ソラの放った水砲で分厚い扉を盛大にぶち壊し、二人は3階の奥の部屋に踏み込んだ。


豪奢な造りのソファーセットに毛足の長い絨毯、壁にはタペストリー、と貴族の邸宅めいたこの部屋は、どうやら秘密の応接間のようであった。


「貴様ら……よくもやってくれたなあぁ……⁉︎」

「ヒイッ……い、命ばかりはお助けえええっ‼︎」


部屋の中にいたのは、この屋敷の主人と思われる小太りの中年男と、軍服を着込んだ目付きの鋭い男。

エリルたちを見た瞬間、中年男は腰を抜かして命乞いし、軍服を着た方は今にも顳顬の血管が切れそうな形相で睨みつけてくる。

軍服の男は、胸元に飾られた勲章を見るに将軍職なのかもしれない。厳つい顔つきに、エリルたち二人を遥かに上回る長身で、その逞しい背には、エリルの背丈ほどもある大剣を携えていた。



そして、そんな彼の手には−−ソラが遠視した通り、マイアがアイランに渡した魔法具ろうそくが握られていた。



「お前が……アイランさんを攫って、マイアさんの絵ろうそくを奪った連中の親玉だね? アイランさんを何処にやった?」

「黙れ! 貴様ら……我らが偉大なる帝国に楯突きおって、生きて帰れると思うなよ⁉︎」


帝国、と将軍は公言した。つまり、この男の背後にある彼の国は、どういう理由でかマイアの魔法具を求めているらしい。

そして今、エリルたちはそれを阻止しに来ている。それは、二人が大陸中央の大国に反逆の意思を示したのと同義である。

それでもエリルたちには、今になって引き返すことなど到底出来なかった。


少女と少年は、十五歳という年齢に似つかわしい、後先考えぬ愚直なまでの意志の強さで−−知り合いのドワーフを救うべく、帝国の人間に対峙したのであった。



「−−死ぃねええええぇぇっ‼︎」


始めに動いたのは将軍だった。大剣を抜き放った直後、力強い踏み込みと共に一気に間合いを詰め、一撃で二人の首を刎ねるべく横薙ぎに刃を振るう。

咄嗟に反応できたのはエリルだった。一歩踏み出し、己の剣を構えてその刃を受ける。

金属と金属がぶつかり合う耳障りな音が響いた。

相手の威力を受け止めきれなかったエリルの体勢が僅かに崩れる。そんな彼女に大剣の斬撃が再び襲いかかった。

エリルはその攻撃を紙一重で避けると、敵を迎え討つべく剣を握り直した。


−−こうして、苛烈な剣舞が始まった。



(……っ! こいつ、強っ−−⁉︎)


将軍は蝋燭の魔法具を持ったままで、片手で巨大な剣を操っていた。それでいて、腕力も、攻撃の勢いも、エリルを大きく凌駕している。辛うじて速さはエリルの方が勝っているが、攻撃を凌ぐのに精一杯で、反撃など一つも出来なかった。


「……! ……っ‼︎」


背後で、ソラが、声にならない悲鳴をあげているのが分かった。或いは、自分に呼びかけているのかもしれない。

援護しようにも、この状況で魔法の攻撃を放てばエリルに当たるやもしれず、迂闊に手を出すことが出来ぬのだ。


「−−−−っ!」


エリルは苦し紛れに後方へと跳んだ。一旦敵から距離を取り、呼吸を整えようとする。−−ところが。

将軍はにやりと口角を吊り上げ、片手をエリルに向けた。どういうわけか、大剣を持つ方の手でなく……蝋燭を持った方を。



その時、唐突に、絵ろうそくに火が付いた。



(……えっ……?)


将軍の、その勝利を確信した笑みを照らすだけの輝きも持たぬ、ただ頼りなげに揺らめくだけの小さな光。

しかし、その光を見た瞬間−−ぞくり、と少女の背筋に震えが走った。

そして。

その震えが確信に、確信が戦慄に、戦慄が恐怖に変わる、それよりも先に。



魔法具に宿った小さな光が爆ぜ−−閃光と、熱と、膨大な“暴力”が放たれた。

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