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赤い魔法使いと人魚姫  作者: 文鳥
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第11話

新しい町、新しいキャラクターの登場です。


「カイトお兄さんは二人のことを信じてたよ! さっすがはオレの見初めた用心棒たち、強さもカッコよさも折り紙付きだな!」

「さっきまであれだけ怯えてたくせに、本当に調子が良いんだから……」

『カイトさんも無事で何よりです』


空中にふわふわと浮かぶ魔法の水玉は、攻撃がこようものなら、たちまち弾丸へと姿を変えて敵を撃退する。そんなソラ特製の魔術によって護られていたカイトは、戦闘を避けて隠れていた物陰から笑顔で顔を出した。

そんな雇い主に呆れるエリルの体を、不意に白い“霧”が包み込む。魔法の霧はたちまちのうちに、エリルが浴びたオークの返り血を洗い落とした。無論それもソラが使う水魔法の一種であって、ソラはエリルの服と体がすっかり綺麗になったのを見てから自分にも同じ魔術をかける。

オークたちの死骸は道の端に寄せておいた。本来ならば土に埋めるのが良いのだろうが、流石に数が多すぎて出来なかった。

そこで、ふと。

ソラは死骸の数を数えてみて、初めに囲まれた際に目測で数えた分より、オークの数が減っているような錯覚を覚えた。



(全滅させたつもりだったけど……数体か、逃がした?)



あの時は敵の数の多さのせいで乱闘状態であり、ソラもエリルも、完全に場の状況を把握できていたわけではない。その可能性は十分にあり得る。

だが、そうだとして自分たちに何か問題が生じるわけでもないだろう。そう考えて、ソラはそれ以上その事について考えるのをやめた。

オークたちの死骸から視線を外し、白墨を取り出してエリルに別の話題を振る。


『本で読んだことがあるとはいえ、実際に見て驚いたな。地上にはこんなモンスターがいるんだね』

「そっか、ソラは海底で育ったんだっけ。でも、初めてなのに戦いもすごく様になってたよ。一体どこで鍛えたの?」

『王都のアクアドリアに入ってくることはなかったけど、海中にだってモンスターはたくさん生息しているからね。俺だって、しょっちゅう王立の競技場コロセウムで訓練やら試合やらさせられていたから、これでも実戦には慣れてるんだ』

「へえーっ、海中のモンスターってどんな奴がいる?」

『大きくて強いのだと、【ダイマオウイカ】とか、【オバケクジラ】とか……伝説級のものでいうと、【海竜王リヴァイアサン】とか。地上のドラゴンより凶悪といわれる魔物も少なくないよ』

「そ、そうなんだ……。ぼく、地上育ちで良かったかも」


出発から早数週間。魔法で戦いながら旅をするのにも、筆談で会話をするのにも随分と慣れてきた。

カイトから聞いた話によれば、この森の道を越えてすぐの場所にプタリナという都市があるという。まだ見ぬ異郷の町に期待と微かな不安を抱きつつ、ソラは二人の後に続いた。





−−プタリナ。

それは港町マーロンと同じ共和国に連なる、共和国の中でも有数の工業都市だ。


主に縫製工場が多く建ち並ぶこの町は、内陸から木綿や生糸など様々な原料の生地が集められ、此処の工場で製品化された後マーロンに送られる。そこから海外へと運ばれて、世界の各国に流通するのだ。

そんなプタリナは元々は移民たちによって興された町であり、現在も多くの移民や難民を受け入れているという。そんな背景もあって都市には様々な種族の者が暮らしているが、マーロンと違ってヒューマンの数はやや少ない。……そしてやはり、海の交易以外で他種族との交流を持たぬマーマンは一人も住んでいないようだった。


「よーし、到着したところ早速だが、泊まる宿でも探そうじゃないか!」


そうソラたちに言って、カイトが踵を返した、その時。


「−−うわあっ⁉︎」


ちょうど角から飛び出してきた人物が、出会い頭に、カイトと勢いよくぶつかった。


「おおっと」

カイトは踏ん張るまでもなく体勢を崩さなかったが、小柄な相手は尻餅をついてしまう。その拍子に、抱えていた紙袋から中身が盛大に散らばった。


「アイタタタ……。す、すまねえ、余所見しちまってた」

「ううん、こちらこそ。うちのバカな雇い主がちゃんと前を向いてなかったのが悪いんだ」

「エリルちゃんはこんな時でも辛辣だな⁉︎ カイトお兄さんは泣きたくなってきたよ⁉︎」


カイトの文句を無視して、咄嗟に荷物を拾うのを手伝うエリル。ソラも倣って地面に散らばったものを集め始めた。

固くて小さなパンと少しの野菜。肉や魚はないようだ。時間帯を考えれば、少し遅めな夕食の材料と考えて自然だった。

しかし。

食料に混じって落ちていた“それ”に、ソラは目を微かに見開いた。


(……これは)


それは、一本の蝋燭ろうそくであった。側面には精緻な花の絵が施されており、失礼ながら豪華とは言えない食事の材料とまるで似つかわしくない。

けれどもソラの目を引いたのは、蝋燭に描かれた絵の美しさ“だけ”ではなかった。


(この蝋燭……どういうわけか、魔力を帯びている……?)


もっとも、世界そのものを構成していると言って過言ではない魔力は、微量ながら万物に宿っている。

だが、この絵ろうそくに込められた魔力は微量どころではなかった。魔導師のソラがその肌に感じたのは、それこそ、大規模な魔術を起動させた際に生じるようなレベルの魔力量だ。



(これ……間違いなく『魔法具』の一種だ。でも、どうしてこの人が−−)



「おおっ、拾ってもらって悪いな。助かったよ!」


そんな時、一通り荷物を拾い上げたソラたちへ、蝋燭の持ち主である青年がにこやかに話しかけてきた。

エリルよりも背が低い、小人ドワーフ族の青年だった。雛鳥の尨毛むくげを連想させる明るい金色の癖っ毛に、くるりと丸い、人懐こそうな赤茶色の瞳。少しぶかぶかした何処かの工場の制服を着ている。


「初めまして、オイラはアイラン。あんたたち、この辺りじゃ見ない顔だけど旅人か?」

「ああ。ちょっとの間この町に滞在する予定だから、今は宿を探してるんだ」

「ふーん、あくまで長居する予定じゃないんだな。それなら……」


カイトの言葉に、ドワーフの少年−−アイランは少し考える素振りを見せてから、ソラたちを見上げて言った。


「それなら今、オイラたちが暮らしてるアパートで空き部屋が一つあるんだ。大家のおっちゃんに頼めば、そこらへんの宿屋より安く泊まれると思うぜ?」

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