第10話
話数もようやく二桁に入りました。今回は戦闘シーンを含みます(下手ですが……)。
「ふあぁ、ねみぃ……」
「一番寝坊しておいてよく言うねカイトさんは。……あっソラ、体調は平気? もう眠くない? くれぐれも無理はしないでね」
『ありがとう。エリルも無茶しないでね』
「オレとソラとの扱いの差がああああ!」
「カイトさんうるさい」
翌日。
朝早くに、エリルたち三人はマーロンの町を出た。
「地図によれば、途中で、“帝国”の領地を−−紛争地帯のど真ん中を通るらしいじゃないか。モンスターとの遭遇率が高いと聞く道も多くあるし、厳しい旅になりそうだ」
「オレ、エリルちゃんとソラくんにすっげー期待してる! オレだけでも逃げ切れるくらいの時間は稼いでくれるって!」
『「雇われてるとはいえ守り甲斐のない聖職者だな本当に‼︎」』
ギャアギャアと緊張感のない会話を交わしながら、一行は歩き続ける。
目指すは北。この大陸で、いくつかの国といくつもの市町村、異種族の集落を経由し、最北端の“聖地”に続く道のりであった。
−−話は変わるが、【豚鬼】とは、この世界に幅広く生息するモンスターの一種である。
豚のような醜い顔を持つ亜人で、性質は野蛮かつ低俗。何故か雄しか存在せず、他種族の雌を犯して子を産ませる。その繁殖力は異常なまでに高い。
知能は低いが、集団で武器を持ち、通りがかった者に奇襲をかけるくらいの知恵はある。その腕力の強さも相まって、世の旅人たちにとってはもっとも大きな旅の危険の一つと言えた。
それは、この三人も例外ではなく−−
「うおおおおいなんか囲まれちまったぞどうすんだよこれえええええ」
「ああもうほんっとにうるさいなカイトさんは! ……まあ、奇襲を許しちゃったのはぼくらのミスだけどさ」
ギラギラと欲望を宿した眼でエリルたちを見下ろす、体長2メートルを上回る巨体のオークたち。その数は二十を優に超え、左右を完全に囲まれてしまっている。
言葉は通じずとも分かる。男は殺して持っている食料を奪い、女は攫って犯して子を産ませようという魂胆だ。
だが、もちろん、エリルたちにそれを許す気などない。
「ぼくがやるよ。ソラには、ぼくが打ち損じた分の始末とカイトさんの護衛を頼んでいいかい?」
「…………⁉︎」
「そんな顔しないでよ。ぼくが弱くないってこと、ソラもよく知ってるだろ?」
ソラが渋々と頷いた直後−−エリルは一人、オークの群れに飛び込んで行った。
正面にいた一体との間合いを一瞬で詰め、抜刀の動作と共に太い胴を両断する。それが、オークとの戦闘−−否、一方的な殲滅の始まりであった。
自分よりも遥かに大柄なオークたちの間を縦横無尽に駆け回り、奴らの肉体に幾筋もの刃の軌跡を刻み込む。振り下ろされた棍棒も上体の動きのみで躱しざま、棍棒を握る腕ごと叩き斬った。刹那、噴き上がる血飛沫の奥から飛び出した斬撃に、たちまち別の血飛沫が上がる。
−−しかし。
(……やっぱり、数が多すぎる。ここから先は楽々とはいけないな)
五体目を斬り伏して、エリルはそう悟った。
低脳なモンスターといえどもこの頃には最初の動揺から抜け出しており、オークたちは、一番の強敵とみなしたエリルを取り囲む形で陣形を整えていた。単純な身体能力ならば向こうが遥かに上であるし、エリルとて疲れを感じないわけではない。
時間が経過すればするほど、こちらが不利になるのは明白だ。そこまで考えて、エリルはオークたちから一旦距離を取る。
その背に、温かいものが当てられたのはその時だった。
「……ソラ……?」
いつの間にオークの群れを掻い潜ってきたのか、仲間の少年が、少女の背に己の背を当てて立っていた。あたかも、彼女の背中を支えるように。
そして。
ソラは声を出せないが、エリルは彼の意図を背中越しに感じ取った。
だから、ふふっ、と微笑して−−それぞれの方向に、ふたり同時に敵陣へ突っ込んだ。
圧倒的な速度と鋭さを孕む剣閃が、自在に形を変える魔水の刃が、豚面のモンスターたちを問答無用で八つ裂きにする。
連携しているわけではないが、勢いだけは同調している。二人に増えた強敵を前にオークたちは今度こそ統制を失い、群れはものの数分で壊滅したのであった。