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序幕 かすかに香る夢
ちりん。
西陽が差し込む和室に涼しげな音が響く。
揺れている風鈴を視界の端で捉えながらも、どこか遠くから聴こえてくるような感覚を覚える。
ちりん。ちりん。
音に誘われるように縁側へ出ると、人影が目に入る。
ゆったりとこちらに歩いて来ているようだが、その人影は夕陽を背に受けているため顔をうかがうことはできない。
ぽちゃん。
風鈴とは別の音。
人影から目をはずせば音の先には池がある。
ふと視線をめぐらせれば、目の前に広がるのは日本庭園と呼ぶにふさわしい美しい庭。そして己が佇んでいる縁側は左右に長く続いている。