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しゃべる鉄道模型

私が鉄道模型について考え込んでいると、おじさんがレジの方に慌てて戻っていった。どうやら客に呼ばれたらしい。

「光じゃないよな。髪短くて男っぽいけど」

「何よ、男っぽいって。……え?今の誰?」

不意にどこかから聞こえた声に自分のことだと反応してしまった。恥ずかしいな、と私は思った。でも誰だ今の声。2、3人ほど客はいるものの、みんな女性で、髪が長くて、服装も女らしさをイメージさせるものを着ている。今さっきのセリフに合致する格好をしているのは私ぐらいだった。確かに私は髪が短いし、服装に無頓着で女性らしさに欠けているかもしれない。

「光じゃないならあんた誰?」

「そんなの私が聞きたい……えっ?光?!」

光という人名にはっとした。青木家火災の死亡した息子の名前だったからだ。今の声は目の前から聞こえたが、目の前には鉄道模型しかない。鉄道模型がしゃべるなんてありえない。しかし大地のことを考えるとありそうな気がする。

「何だ。お前、光のこと知ってるの?」

間違いなく声は鉄道模型からだった。

「光って、火災で死んだ男の子じゃないの?」

私はなぜ鉄道模型がしゃべるのか理解できなかったが、とにかくこの模型が何か光について知っていそうなので、話しかけるほかなかった。

「……ということは、成功したんだ。生まれ変わった光いるんだろ?どこにいるんだ?」

何言ってんだこいつ、と私の頭が混乱しかけたが、生まれ変わりという言葉にだけ反応することができた。生まれ変わり…そうだ、きっとこの模型も大地と同じなんだ。

「ねえ、あなた、ちょっと……」

私はそこで言い淀んだ。おじさんが戻ってきたからだ。おじさんが奇妙な顔でこちらを見ていた。

「みちるちゃん?」

「な、何でもないです!おじさんこの模型いくらですか?!」

「みちるちゃんって鉄道好きだったっけ?5千円くらいだったかなぁ」

私は、おじさんに5千円札を押し付けると鉄道模型を抱えてすぐさまリサイクルショップを飛び出した。


「あなた、誰?生まれ変わったの?光とはどういう関係?火災について何か知ってるの?」

家に帰った私は矢継ぎ早に質問した。大地も何が起こったのかと興味津々でのぞいてきた。

「質問は一個ずつだよ、みちるちゃん」

「私の名前知ってるの?」

「知ってるも何も、ショップの店員が君のことみちるちゃんと連呼してたじゃないか」

確かにそうだな、と私は納得した。鉄道模型は続けて一つずつ質問に答えていった。まず、正樹と言って光の友人であること。鉄道模型への後悔が死んでなお残っていたためにこんな姿になったこと。火災については、光が放火をほのめかす発言をしていたことぐらいしか知らないこと。


「じゃあこのノートは?」

大地が割り込んできた。ノートがノートを示しているこの光景はさながら滑稽なものがある。

「どっちの?」

「正樹くん、こっちは大地と言ってね、あなたと同じ生まれ変わりなの。私たちが聞いているのはこっちのノートのことね」

私は例のノートを正樹の目の前に置いた。といっても鉄道模型なので、どこに目がついているのかは知らないが。

「知らないノートだな。でも筆跡は光っぽい気がするよ。こんなもの残ってるなんて不思議だね。誰が持ってたの?」

「友人の守」と大地が答えると、

「ノートのくせにいつの間に友人になったんだろう。本当に大地って不思議」と私は思わずつぶやいてしまった。大地が小さく、「またノートって…」とぶつくさ文句を垂れる。

一方の正樹は、何もしゃべらなくなってしまった。


はたから見ると、鉄道オタクの女が、「鉄道のジオラマを作りたいから、模型は買ってきたものの、どうやってジオラマ作ろう。よし、このノートに書いて考えてみよう」と考えていそうにしか見えない光景だった。

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