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このノートは誰が書いたのか  作者: 珀桃
2006年夏から
4/15

無理心中への決意

いつか母に殺されるかもしれないぞ、と正樹は言った。そうかもしれない。母の改心を願う事は馬鹿らしい事かもしれない。今の母は、いなくなったニューパパのことしか見えていない。僕はアルバムをめくった。そのアルバムは僕がまだ幼い頃、つまり母が優しかった頃に撮った写真がおさめてある。笑顔の母と僕が写っている。いつかまたこの頃みたいに笑ってくれるはずだ…。

そんなある日、正樹が事故に遭って即死したと連絡が入った。正樹の母が僕にノートをくれた。そのノートには正樹の夢が書いてあった。

「私はこんなの持っていてもつらくなるだけだから…」

正樹の母は涙を流していた。きっと優しいお母さんなのだろうな、と僕は思った。正樹の夢はこんなものだった。『鉄道模型を集めて鉄道会社をつくる』

なんだそれ。僕は呆れた。なんかこう、宇宙飛行士とか、プロスポーツ選手とか、書くべきものは他にあっただろう。それから正樹の母は鉄道模型まで預けてきた。全く鉄道に興味のない僕はなんでこんなもの預からなきゃいけないんだと思った。価値も全く分からない。

僕の母は正樹の遺品を一瞥すると、

「お前の友達、そういえば死んだのね」

とつぶやいた。

僕はよく分からない遺品の数々を本棚に並べることにした。

それから異変が起きたのは49日後のことだった。

「…光」

部屋の中で誰かが僕を呼んでいる。おかしい、この部屋には僕以外誰もいないし、母はめったにここには来ない。

声の元をたどると、例の鉄道模型からだった。

「光、俺だよ、俺。正樹」

「オレオレ詐欺…?」

「違うよ。知らないのか、生まれ変わりの話」

「生まれ変わり?」

それから正樹に聞いた話は衝撃的なものだった。死んだ時に後悔したことがあると、生まれ変わること。生まれ変わった姿は人間だったりそうでなかったりするということ。

「つまりお前は鉄道模型に後悔があったから…生まれ変わったと?」

「そうだよ」

「でもその姿で夢を叶えられるのか」

「無理」

「中途半端な生まれ変わりだな」

鉄道模型になった正樹と僕はそれから一緒に暮らし始めた。もちろん母はこの事を知らない。母は相変わらずご飯をくれないし、些細な事で怒って暴力をふるってきた。最近はきちんと家に帰って来ない事もしばしばあって、ニューパパを探しているのだろうかと僕は思った。


そんな生活がずっと続いていて僕は気づいた。

「死んだ時に後悔したことがあると、生まれ変わることができる………ね」

「どうしたんだ、光」

「じゃあさ、僕はどうだろうか」

「…?」

まだ僕の魂胆に気がつかないらしい。鈍感なやつだ。

「僕、死のうと思うんだ。母さんと一緒に」

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