キャンプファイヤー
「合宿計画」と、そこには書かれている。
「みんなにこのプリントは行き渡りましたか。これから不思議研究部の合宿について説明します」
大きな声で場を取り仕切るのは部長の佐竹だった。
「今回は炎にまつわる怪奇現象を解明しようと思っております」
「よく言うな、いつも食べて飲んで喚いて終わりなのに」と、大地。隣にいる私としては、今の発言が佐竹に聞こえてないか不安だったが、動じていない所を見ると、聞こえていないようだ。ここ、不思議研究部というのは世の中の怪奇現象を解明する集まりらしい。私、大地(ただしノートであるため、部員数としてカウントされていない)、守、瞳子が所属している。真面目に霊などについて調べたい新入部員がやってきては、理想と現実のギャップに驚いて去っていくことも多い。つまり、楽しければそれでよし、とするお遊びの集まりとも言えた。今回、合宿のテーマが「炎にまつわる怪奇現象」のため、キャンプファイヤーを行うということだった。なぜキャンプファイヤーをしたらそれが分かるのかという謎は解明されなかったが。
「合宿楽しみー!おやつは300円まで?」
「うるさい。ノートのくせにおやつの準備とかいらないでしょ」
てきぱきと荷物を鞄に詰めていると、大地がいちいち横槍を入れてくる。
「おい!ちょっと!俺、荷物扱い?!」
鬱陶しいので荷物と一緒に鞄の中へ入れた。
「さっきからいちいちうるさい!連れて行ってあげるだけ感謝しなさい!あんまりうるさいとキャンプファイヤーの火にくべるから!」
そこまで言うとさすがの大地も怯んだらしく、何も言わなくなった。ようやく落ち着けた、と私は思った。着替えやタオルなどを詰めながら、頭の中は殺人ノートのことを考えている。そういえば、こないだ教授に聞こうと思ったこと、結局聞かないままだ。私は正樹こと鉄道模型をちらっと見た。もうあのノートのことは忘れるつもりだったけど、こいつが出てきたせいで話がややこしくなった。守にもまだ「分からない」とは言っていないし、おそらく向こうも向こうでこちらの進捗具合を気にしているのだろう。
「とりあえず目先の合宿を一番に考えよう」
こうして私は面倒事からいったん逃げることにした。荷物はすべて詰め終わった。
当日の天気は快晴だった。目玉のキャンプファイヤーの準備をする班と待機する班に分かれた。私たちは待機班だ。
「自然の家思い出すね、みちる!」
「あ、そういえばそんな行事あったな」
瞳子がにこにこと話しかけてきた。彼女はキャンプファイヤーを純粋に楽しむつもりのようだ。
「火の神とか出てくるかなー。やっぱり山とか空から舞い降りてくるのかな」
「いないって、そんなの」
「みちるつまんない!なんでそんな投げやりなの?」
生返事を返し続けられて瞳子が少し怒った。
「だってそんなのいるわけないでしょう。いたとしてもその火の神、中の人は佐竹さんだろうし」
瞳子は確かにそうかも…と頷いた。向こうから守が歩いて来るのが見えた。
「あ、守だ」
そういえば瞳子って守の彼女だよな、ということが頭をよぎった。
「そういえば二人付き合っているんだっけ」
「やだ!何言ってんの?付き合ってないよ」
「でも守がそう言ってたけど」
「何勝手なこと言ってるのよ、あいつ!」
瞳子が怒って駆け出して行った。嘘八百を言った守に怒り心頭のようだ。どうやら守はキャンプファイヤーの準備が整ったことを伝えに来たらしい。
「みちる…俺もキャンプファイヤーする」
ずっと鞄の中にいた大地がすっかりふてくされてつぶやいた。
「はいはい。薪として参加するのね。いいわ、このショルダーバッグの中に入って」
「違う!炎見て歌ったり踊ったりする!」
ノートのくせにどうやって、というお決まりの言葉が口をついて出そうになったが、押しとどめた。瞳子がこちらをじっと見ていた。
「みちる?今、誰かとおしゃべりしてた?みちるじゃない誰かの声が聞こえた気がする」
瞳子は大地のことを知らない。
「気のせいだよ。早く行こう」
瞳子を連れてキャンプファイヤー会場に向かうと、炎が燃えているのが見えた。その周りに皆が輪になっていた。もちろん守もその中にいた。
「守!」と、ショルダーバッグの中から大地が呼びかける。
瞳子があれ、という風に首を傾げた。私は瞳子に大地のことを説明すべきかと思った。
「あ、あのさ。実は」
「……そのショルダーバッグ、しゃべるんだ」
「そう、このノート実はただのノートではなくて……って、え?」
目を丸くして驚いているのは、瞳子ではなく守だった。その隣で瞳子は守の方をちらりと見て、走ってどこかへいなくなってしまった。
「え?何、どうしたの」
呆気にとられる私を尻目に、炎は燃え続けた。




