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教授に聞こう

資料をもらうと、私は早速その資料に目を通した。大地も目を凝らして資料を読んでいる。ノートのくせにどこに目があるのか、いつも不思議である。

「今日は転生学の第10回になります。

さてもうこの講座も残り少なくなってきました。まず転生こと生まれ変わりについてですが、本人の意図に反して生まれ変わりさせられることもあります」

どういうことだろう、と私は思った。本人が生まれ変わりたいと思ってもいないのに、どうしてそんなことになるのだろうか。

「それは、別の人間の意思が関係しています。別の人間に後悔があって死ぬとしましょう。この場合、生まれ変わってその後悔を達成するチャンスを与えられます。仮にこの人間の後悔が、『女の子に告白したが実らなかった』というものだったことにします。つまり、後悔を達成するするためには女の子が生まれ変わった時にいなければなりません。」

聞いていると、まるで生まれ変わりさえすれば告白が成功するとでも言いたげな口調である。そういう簡単な問題ではないような気もするが……。

「つまり、人間ことAさんは後悔を達成するために女の子ことBさんを巻き込んで死ぬわけです。ちなみにBさんはこの時、本人の意思に反しているものの、生まれ変わることによってBさん自身のチャンスが失われます。生まれ変われるのはただの一回だけです」

とばっちりを食って死んでしまうBさんが可哀想だな、と私は思った。

「ですが、問題があります。Bさんは死にたいわけではなかった。このような場合ですが、生まれ変わった時に記憶を失っていることがあります。」

何も覚えていないまま、気がついたら生まれ変わっていたというのは不思議なことだから、幼少期のことなどの設定が欠けてしまうのだろうか、と私は思った。ふと思ったのだが、生まれ変わった人って(人に生まれ変わったら)小さい頃の記憶とかがあるのだろうか。家族は。友人は。もしかして後悔を達成するのに適した人物に魂だけ入れ替わるのだろうか。なんだか怖い。

「記憶を失わせたままの方がいいのか、取り戻す方がいいのかはケースバイケースですね。まだここは私も研究しなくてはならないところですから、正確性に少し欠けることをおことわりします」

考えてみたら私の周りって人間に転成した奴がいないな。今までそういうこと考えてもみなかった。

「これまでのケースでは、記憶を失った生まれ変わりは死ぬ直前の光景を見せることで稀に記憶を取り戻すことがあります」

史郎教授の配ったレジュメには3人の生まれ変わりの例が載っている。あくまで3人しかいないので憶測に過ぎないような気もするが…。しかし、同じようなパターンを何人も見つけるのが難しいだろうから、仕方なくそう結論づけたのかもしれない。

「AさんとBさんはビルから飛び降り自殺をしたということにしましょう。Bさんは別人Cさんに生まれ変わります」

CさんはBさんだった時のことを忘れている。つまりここでのCさんは独立したCさんだ。もしCさんがBさんとしての記憶を取り戻したらCさんはどうなるのだろうか。はじめからいなかったことになるのだろうか?ああ、こんがらがってきた。よく小説のワンシーンで見る、前世の記憶を取り戻した人のようになるのか。

「Cさんとビルに上って、真下の風景を見せるとBさんだった時のことを思い出すことがあります」

Cさんはどうなるのだろうか、という私の疑問に答えることなく、授業が終わった。後から教授に聞こうと私は思った。



青木光のことを調べるために、鉄道模型の正樹に道案内してもらいながら、全焼した青木家を訪ねた。建物は手をつけられないままだった。

「ねえ、こんなところに手がかりがあるの?光の生まれ変わりを探すって言っても、人に生まれ変わっているかどうかもよく分からないし、人に生まれ変わっていても人なんて何千億人いるかわからないのに」

「でも光の後悔って、お母さんと仲良く暮らすことだろう。虫とか物とか、ヒト以外になってると思う?」

「つまりマザコンだから奴は人になってる、と」

大地が簡潔にまとめた。途方に暮れていると目の前を親子が通り過ぎた。母親と息子らしき子どもだった。ああいう風に二人とも生まれ変わっているのか。また誰か向こうからやってきた。

「あなた、この家の人?」

向こうから話しかけられた。この家、というのは目の前の全焼した青木家のことらしい。

「違います」

「そうなの?じゃあ知り合いとか?ここの家族ね、奥さんに愛人ができてからすっごく険悪だったからね、終いには火事なんて、愛人の妻に放火でもされたんじゃないかって噂が絶えないの」

ずいぶんとおしゃべりな人だなと私は思ったが、そんないざこざがあったとは知らなかった。

「知り合い…みたいな者です。詳しく教えてくれませんか」

それからこのおしゃべりな隣人は青木家にまつわるいざこざを面白おかしく話してくれた。多少隣人の想像も入っていただろうが、正樹との証言でとりあえずおおまかなところは合っていると分かった。

「それでねぇ……奥さんが結構大声で連呼する声がうるさくってね。『史郎さん!』ばっかり……」

え?

史郎?

それってもしかして、史郎教授のこと?


その時ぼそっと大地が耳打ちした。

「なんか面白いことになってきたなぁ。教授に聞こう」


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