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ノートと会話する女

 「○○県○○市で住宅が全焼、焼け跡から二人の遺体が発見された。警察はこの家に住む青木美代子さん、青木光さんと見て、身元確認を急いでいる……」

何気なくテレビをつけたら、火災のニュースが報じられていた。喜瀬川大地はそれを眺めていた。それから遺体に刺し傷が複数あるとキャスターが告げた。俺はこれがただの火災ではないような気がした。向こうから足音がした。俺の持ち主である黒沢みちるだ。みちるは火災のニュースを見るやいなや、チャンネルを変えてしまった。

「こんなのばっかり見てないで、もっと面白いものを見ようよ」

テレビにはどこの誰だか知らない芸能人が笑っている様子が映っている。

「いつも思うけど、あなたのどこにリモコンいじる手があるの?ノートのくせに」

「それは言えないな」

 ところで、俺はもう人間ではない。ノートに生まれ変わっている。事の発端は簡単なことだった。生前、ノートが足りなくなったので買いに行ったらその帰り道で事故に遭ったのだ。せっかく買ったノートが勿体ないとかくだらないことを今わの際に考えていたせいで、こんな姿になってしまった。そして普通のノートに紛れて販売されているところへみちるがやってきた。みちるは気付かず購入し、帰ってからノートに生まれ変わった俺を見て、さしたる驚きもなく、「これじゃ使えない」ともう一度ノートを買いに出かけた。

 生まれ変わりは珍しいことではなく、この町では当たり前の現象として受け入れられている。ただし、死んだ人が皆生まれ変わるわけではなく、死んだときに何か後悔のあった人のみだけだ。生まれ変わる姿も人それぞれで、普通の人として生まれ変わる人もいれば、そうでない人もいる。ちょうど、この俺のように。

 見た目こそただのノートだが、ほとんど人間のようにふるまうことができる。テレビのリモコンも自由自在に使いこなし、みちるに一晩中話しかけることもできる。さすがに飲食はできないが。ときどき雑誌や本で、美味しそうな食事を見ては食べられないもどかしさを感じる。みちるはそれを利用して、不機嫌な時は大抵俺のノートに美味しそうな食事の写真を貼り付けてくる。みちるはこういう意地悪な一面もあるが、基本的には優しい。

「そういえば守が講義のノート見せてくれって言っていたな」

みちるががさがさと本の山をいじくり始めた。みちるは整理整頓が苦手だ。よくプリントやらノートやらを積んでいってしまいにはどこにあるか分からないとわめいている。

「守と言えば、瞳子という彼女ができたと聞いたよ」

「ノートのくせにそんな情報どこから仕入れているの」

みちるはよく「ノートのくせに」と言う。人間だったらできて当たり前のことが、ノートにできるのは凄いことだから、という理由かららしい。

「それからノートと言えば、守がおかしなノートを見つけたと騒いでいたよ」

「ノートのくせに、本当にどこから情報を仕入れているの」

俺はみちるの質問を無視して続ける。

「物騒なノートでね、人の殺害方法について事細かに調べて書いているらしい」

「ふうん、それで?」

みちるももうどうでもよくなったとばかり、続きを聞いてきた。

「このノートは誰が書いたのかって聞いてきた。ほら、これがそのノートだよ」

机の上にノートが2冊並んでいる。喋るノートと殺人計画が練られたノートと、ノートと会話する女の光景は滑稽だった。






次回からは過去のお話になります。しばらく大地とみちるは出てきません。

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